第133話 提携事業の結論

 学校側の方針が定まるまでにさらに数日が必要だった。

 その間、教員間で話し合いがもたれ、理事会にも相談が行き、扶桑さんとも頻繁に意見を交換するということが繰り返しされた、らしい。

 一生徒でしかない智香子は、そうした事情について間接的に耳するだけであり、直接そうした現場を見聞できる立場にはなかった。

 第一、普段は普通に授業を受けているわけで、多くは平日の昼間の行われていたのであろうそうした会合とか根回しに立ち会えるわけがない。

 多くの私立校と同じく、松濤女子は「教育機関」としての側面と「営利企業」としての側面を持っている。

 この件が生徒たちに与える影響を推し量るのと同時に、松濤女子という営利団体にとってこの件が利益になるのかどうかも、詳細に検討されたようだった。

 これまで松濤女子は、迷宮関連だけでも探索者用の装備を作るメーカーと提携して生徒たちにモニター役をやらせたりと、そういった形で外部営利企業との提携業務を行って来た実績がある。

 だからこの件についても、反対意見はあまり目立たず、せいぜい、「扶桑さんの会社のパーティに同行することが、実際にはどれほど危険性を持つものなのか?」という具体的な検証作業が行われた程度であるらしい。

 これは、松濤女子の教員や保護者の中に松濤女子の卒業生がそれなりに含まれて、探索者としての資格を持つ人も大勢いたために可能となった検証作業だった。

 志望者を募り、実際に扶桑さんの会社のパーティに同行し、「しかじかの仕事をしてもらう予定だ」などの説明を受け、学校側と扶桑さん側が生徒たちの禁止事項などを綿密に打ち合わせた結果、ようやく「実行してもいい」という許可が学校側から降りた時には、すでに十月に入っていた。

 その間、智香子たちはこれまで通りに学校に通い、迷宮に入り、つまりは以前と同じような生活を続けていたわけだが、その報せが勝呂先生からもたらされた時、智香子たちがまず第一に思ったのは、

「やっとか」

 ということだった。

 なんにせよ、ある程度の規模を持つ組織が大きな決定をする場合には、相応の時間が必要となる。

 そのことを実感できたという意味では、かなり「教育的」なパターンであったといえるのかも知れない。

 それと同時、学校側は探索部に所属している生徒たちの保護者に詳細を説明するプリントを配布し、希望する保護者には、扶桑さんと合同で説明会なども行っていた、らしい。

 こちらの方も智香子は、

「そういうことがあった」

 と人伝に聞かされただけであり、その現場を自分の目で見たわけではない。

 智香子自身に関していえば、母親にそのプリントを渡しただけだった。

「あらまあ、そんなことまでするの」

 プリントにざっと目を通した智香子の母親はそういった後タブレットを取り出し、しばらくなにやらネットで検索をしてから、

「まあ、この会社ならそんなに間違いはないんじゃない」

 と、一人で頷いていた。

 どうやら扶桑さんの会社について、ネット上で検索できる情報を片っ端からチェックをしていたようであった。

 学校側から伝えられる内容をそのまま鵜呑みにするわけではなく、自分でも調べ物をしてから納得するという態度が、いかにもこの母親らしいな、と、智香子はそう感じた。


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