第46話 バッタの間、通過

 六月になり、梅雨に入ったが、探索部の活動はたいして変わらなかった。

 外で雨が降っても、そもそも迷宮がある建物には、外に出ることもなく、校舎から直接行けるようになっている。

 探索部の活動に支障が出るような要素は、なにもないのであった。

 変化といえば、智香子たち一年生がぼちぼちバッタの間を単独制覇するようになって、他の上級生たちといっしょにパーティを組むようになったことくらいか。

 なんだかあれも、最後は体力と根性勝負のようなところがあったな、と、智香子は、そう思い返す。

 バッタの間に入る人数をどんどん減らしていき、最後には単身でバッタの間を全滅させることに成功した人間だけが、普通にパーティを組めるようになる。

 というのが、松濤女子の伝統だ。

 これは、一年生が他の人員の足手まといにならないよう、最低限の能力を備えるということと、それに本人の安全性を保証するという、二つに意味合いを持つ伝統であると智香子は思うのだが、このバッタの間を超えられるにそれ以降の活動を諦める新入生も、決して少なくはなかった。

 智香子自身もあの荒行にはかなり閉口したし、諦めた人たちの気持ちもよく理解できた。

 なんといっても、あそこのバッタは数が多すぎるのだ。

 たった一人であれらを相手にしてみると、そのことがよく実感できる。

 体力的、時間的にもきつい物があったが、どうにか智香子はその単独全滅をやり通せた。

 バッタの間をクリアした一年生の中でもかなり遅い方だったし、それに、かなり長い時間、バッタの間で粘っていたような気もする。

 攻撃用のスキルをまるで持っていない智香子は、圧倒的に打撃力を欠いていた。

 他の新入生たちより余計に時間がかかるのは、仕方がない。

 引率役の先輩には迷惑をかけることになったが、ともかく、智香子は松濤女子で晴れて通常のパーティを組む資格を得たのだった。

 これまでの人生の中で、あれほど体を酷使したことはなかったような。

 その時のことを思い返して、智香子はそんな風に思う。

 この春から迷宮に入るようになって、智香子は何度か全身筋肉痛を経験しているのだが、あれが最後の決定打、だったような気がする。

 ともかくきつくて、どうにかバッタを全滅させた後は自力では動けなくなり、結局引率役の先輩に運ばれて外の出ることになった。

 恥ずかしいやら情けないやらで、ただひたすらその先輩に申し訳がなかったが、当の先輩の方はさして気にもとめていない風だった。

 普通の探索者なら、少なくとも迷宮の中では、小さな智香子の体重くらいは気にするような負担でもないのだ。


 とにかく、こうして晴れてまともにパーティを組めるようになった智香子だったが、別の問題が浮上した。

「さて」

 智香子は、先にバッタの間を通過していた黎と顔を見合わせて、相談をはじめる。

「どこのパーティに、入れて貰いましょうか?」

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