第47話 黎の違和感

 GW連休明けの前後から、ぼちぼちバッタの間を単独でクリアする新入生が出はじめる。

 その時期は新入生個々の能力や適性によって前後してくるわけだが、とにかくバッタの間を単身でクリアできたら、晴れて他の、すでに稼働している上級生のパーティに入れて貰うことができた。

 というのが、ここ松濤女子の伝統なのである。


「必要最低限の累積効果をゲットして、その上である程度迷宮での経験も欲しいとなると、最低限、その程度のミッションはクリアしていないと困るってことなんだろうけど」

 黎は智香子にそう説明をした。

「実質的には、しばらくお試し期間になるわけだね。

 パーティを組むともなれば、スキル構成以外にも、性格的な相性とかもあるわけだし」

 いっしょにパーティを組んで迷宮に入ってみないことには、わからない。

 そういう要素も、確実にあるわけで。

 また、既存の、上級生のパーティにしてみれば、自分たちが欲しい能力やスキル構成の新入生をうまく勧誘したいわけであり、この「お試し期間」内に、探索部の動きは普段よりも活発になる。

 特に、人の動きが。


「黎ちゃんの場合はどうだった?」

「ありがたいことに、一応、先輩方から申し出があって、何組かのパーティに参加させて貰ったんだけど……」

 智香子が訊ねると、黎は言葉を濁す。

 智香子よりも先にバッタの間を単独で突破した黎は、すでに先輩方とパーティを組んだ経験があるはずだった。

「だけど、ということは、どこもピンと来なかったわけだ」

「まだこっちの能力が先輩方のレベルにまで全然追いついていないから、完全にお荷物状態だったのは前提なんだけど」

 黎は、神妙な顔つきになった。

「だけど、仮にこの先自分が成長をしたとしても、そのパーティ内で活動をしたいか、する意味があるのかってのが、ちょっと微妙なところばかりで。

 わたし、今の時点では純粋なアタッカーだからさ。

 大抵のパーティでは、攻撃力は安定して足りているんだよね」

 そもそも、そうでなければ安心して迷宮に入ることができない。

 すでに十分な火力を持っているパーティに、自分のような未熟なアタッカーが今さら参入する必要があるのだろうか?

 いや、将来的なことを考えて、黎の成長性まで見込んで同行させるにしても、それではパーティ全体の攻撃力だけは伸びるのだろうけど、パーティの質自体はまるで変わらないわけで。

 それはちょっと、なにか違うんじゃないかな。

 うまく言葉にできないけど、黎はこれまでに参加した先輩方のパーティ、そのあり方自体に、根本的な違和感をおぼえている。

「なんというか、これまでに経験した範囲内だと、松濤女子のパーティっていうのは、攻撃力に頼りすぎる気がするんだよね」

 黎は、懸命に頭を働かせて、自分が抱いている違和感を智香子に伝えようとしていた。

「ほとんど場合は、火力さえあえれば切り抜けられるんだけど。

 でも、それだけではどうしようもない場面が、迷宮の中では発生することもあるんじゃないか。

 そう、思っちゃったんだよね」

 その違和感、

「それだけでは、足りないのではないのか」

 という不安は、黎の中では否定しきれないほど大きくなっているようだ。

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