第181話 年末

 智香子たちはかなり大量のアンケート用紙に目を通した上、十日ほどかけて意見書を作成した。

 その作業が終わったのは期末試験がはじまる前日であり、智香子の感覚としては、

「ギリギリ間に合った」

 という感じだ。

 その意見書はまず委員会の人たちがチェックし、その後に職員の先生方がチェックしてから、ようやく扶桑さんの会社に回されることになっている。

 委員会の人たちには、これまでに途中経過として何度か内容を見せてもいたので、そんなに大きな指摘はなされないだろうと智香子は予想していた。

 それ以降の職員とか扶桑さんの会社とかとの意見調整については、そもそもの前提として「時間がかかるもの」と智香子は認識しており、たたき台となる意見書を年内に提出できただけでも上出来であろうとも判断していた。

 そんな感じで智香子たちは期末試験に挑むことになったわけだが、そちらの方も智香子はそれなりの準備を整えていた。

 智香子は学校の成績に関して、自分の能力を過信していない。

 それどころか、小学校では特に努力をすることなく上位の成績を保持していた智香子が、この学校に入って以来、テストの成績でいえばクラスでも中間くらいの成績になっている。

 入学時に足切りをされているわけだから、相対的に自分と同等以上の生徒しかいないのは当然のことだったが、手を抜けば成績はどんどんさがる一方である、という危機感を普段から智香子は感じていた。

 そのために智香子は、多少多忙になってもどうにか帰宅後に学習に充てる時間を捻出して、ちまちまと地道な努力をしている。

 そうしないと、成績は下がる一方であると思っていたから、時間を費やしてどうにかするしかなかった。

 そんなわけで普段から予習復習を欠かさない智香子は、この二学期の期末試験に対しても、特別な準備をする余裕はなく、万全の状態で、とはお世辞にもいえないにせよ、まあ無難に、大過なくやりすごすことができた。

 はず、である。

 中高一貫六年生の松濤女子では、その六年間に授業で行う内容さえおぼえておけば、まず大抵の大学には入学できる、といわれていた。

 公立中学の授業内容について、智香子はなんの知識も持っていなかったが、現在進行形で受けている松濤女子の授業内容は、智香子の主観によればかなり密度が濃かった。

 智香子としては、それに遅れず、取りこぼしがないように授業の内容を身につけようとするだけでも手一杯だった。


 期末試験最終日の放課後、智香子は同じクラスの香椎さんと連れだって、ひさしぶりに委員会の教室へと向かう。

 委員会が使っている教室はまだ人がいなくて、智香子たちに少し遅れて黎と佐治さんもやってきた。

「先輩たちは?」

「いないね」

「まだ来ていないのか、それとも迷宮にいってるのか」

 迷宮に出入りをする探索部の生徒たち、その動向をチェックするのも、この委員会の重要な仕事だった。

 現在の、智香子たちは扶桑さんの会社とのやり取りを任されているため、そちらの当番からは一時的にはずされているのだが。

 迷宮に入る前に、生徒たちの健康状態を顔色や挙動などで確認したり、迷宮が出て来た時はドロップ・アイテムのチェックなども行う。

 というか。

 と、智香子は思う。

 どちらかというと、そっちの日常的な仕事の方が、委員会の主眼だよな。

 と。

 智香子たちが手がけている仕事の方が、委員会の仕事としてはどちらかというとイレギュラーな内容になる。

「提出した意見書、どうなっているかなあ」

「先生方の元までは、いっていると思うけど」

「細かい調整とか、これから先が長いと思うよ」

「そういうの、本格的にやるのは年が明けてからでしょう」

「SNSに今回の改良案が実装されて、それ以降も細々とした調整をしていくことになるはずだから」

 半年や一年くらいは、余裕でかかるのではないか。

 と、智香子は思う。


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