第182話 思索

 あと数日で二学期も終わり、今年の授業もすべて終了する。

 つまり、冬休みに入るわけだが。

「その前に、最初の課題を終わらせることができてよかった」

 と、智香子は心の底からそう思う。

 スケジュールからいえば、来年度から本格的に稼働できる状態になっていればよいのだが、最初の段階で躓くと、その後にしわ寄せが来る。

 それを避けられただけでも、とりあえずは十分なのではないか。

 とも、思った。

 そもそも、校外の一般企業とのコラボレーション事業に関して、生徒に、それも、まだ中学一年生でしかない智香子たちに任せている状況が、普通に考えれば異常なのだが。

 だけど、ここは松濤女子、だからなあ。

 とも、智香子は思う。

 これまでも、公社とかその他の外部企業とかと生徒たちが普通に交渉を重ねてきて、今の探索部が存在する。

 それを考えると、今回の事例もこの松濤女子の中では、特別な例外というわけではないのかも知れなかった。

 上級生たちやそれに教員のチェックが入るので、その意味では若干、智香子としても気が楽ではあったが。


「今年も終わりか」

 と、黎が呟く。

「早かったなあ。

 あっという間」

「中学に入学しただけも、かなり大きな変化だったのに」

 香椎さんも、そう続けた。

「探索部も活動も、なんだかんだで忙しかったから」

「慣れる前に、変化を作る人がいるから」

 佐治さんが、そういう。

「それくらいの方が、面白いと思うけど」

「面白い」

 智香子は呟く。

「こっちとしては、面白いところじゃないんだけど」

 今回の件についても、考えなければならないことがいっぱいありすぎて、頭がパンクするような気分を何度も味わっている。

 細かいタスクに分解して、ひとつひとつ焦らずに処理をしていく、という地道な工程を繰り返して、どうにか終わらせることができたわけだが。

 それに、ここのいる三人にもかなり手伝って貰ったから、これだけの短期間でどうにか意見書を形にできたのである。

 智香子一人だったら、冬休みを丸ごと作業時間にあてても、三学期がはじまるまでに作業を終わらせることはできなかっただろう。

 逆に、これ以上に人数がいたらどうなっていたのだろうか?

 そう考えた智香子は、

「その場合は、作業をする全員の意見を摺り合わせる手間が多くなって、かえって作業効率が落ちたのではないか」

 と、すぐに結論をする。

 作業量に対して、それを処理するために適切な人数というのは、確実に存在をすると思うのだ。

 特にこの三人の場合、智香子が考えていることを最初から説明をされているので、改めて同じことを繰り返し教える手間を省くことができた。

 そのことも、この意見書をまとめる作業時間が比較的短時間で済んだことの一因になっている。

 作業の全体量にもよるんだろうけど。

 と、智香子は思う。

 大勢で手分けをしてやるよりも、意思の疎通が容易な少人数で作業する方が、かえって効率がいいパターンも多いのではないか。

 もっとも、作業量以外にも、その仕事の性質などの要因も絡んでくるので、安易な一般化はできないのだろうが。

 たとえば。

 と、智香子は考える。

 探索部の部活として迷宮に入る場合、安全マージンを大きく取る関係もあって三十名以上の人数でパーティを組むのが通例となっている。

 探索部はあくまで部活だから、部員の安全を第一に考慮する方針自体は問題はない。

 だけど、ドロップ・アイテムなり累積効果なりを目的に迷宮に入る場合は、もっと少人数構成のパーティにする方が効率がいいのではないだろうか。

 実際、大人の、専業の探索者たちは十名以下の人数でパーティを組むことが多いようだし。

 ただこれも、単純に同じ時間に集合できる人数が限られているとか、あるいは、人数が多くなると分け前も減るなどの、即物的な事情が多く絡んで、結果として少人数パーティになりがちなようだったが。

 なにを目的にして迷宮に入るのか。

 結局は、その前提が違えば、パーティの人数も自然と変動するのではないか。

 そういえば。

 そこまで考えた智香子は、以前、扶桑さんの会社の人にいわれたことを思い出した。

 それに、城南大学の人たちも、そんな噂話をしていたような気がする。

 なんだか、たった一人で迷宮に入る探索者がいた、とか聞いたようなおぼえが。

 その人は、なんの目的で、ハイリスクなソロ活動などしているのだろうか。

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