第180話 意見
智香子たちの意見だけで仕様を決めてしまうと、絶対に後で苦情が来る。
そのことがわかっていたので、智香子たちは協力者を募って扶桑さんの会社の人たちとパーティを組んで貰っていた。
兼部組や智香子たちのような探索部にだけ所属している人たちなど、多様な生徒たちに体験をして貰った上で意見を貰い、それを反映させた形にしている。
少なくともそうした意見を集計している智香子たちは、そのつもりであった。
「現行のシステムに手を加える形だから、開発時間はそんなにかからないっていわれているけど」
アンケート形式で意見をまとめたデータに目を通しながら、黎がいった。
「それでも、来年度から本格的に稼働させるなら、年内に仕様を決定したいところだよね」
「開発期間が終わっても、その後で実際に使ってみれば、改良したい部分も出てくるでしょうし」
香椎さんも、そんなことをいい出す。
「そういうことも含めて考えると、こちらからの意見を提示するのは早ければ早いほど都合がいいはず」
「もうすぐ期末で、それが終わるとクリスマスと冬休み」
佐治さんが、そういう。
「本格的に忙しくなる前に、この作業も片をつけたい」
「ごもっとも」
智香子はみんなの意見に頷いた。
「そのためには、まずはこのアンケートを手早く集計しないと」
数百名単位の意見を集計するのは、なかなか大変な作業だった。
こちらかの設問に対して、あらかじめ用意をした答えを選択する場合は単純に集計をすればいい。
統計的な、いいかえれば機械的な作業で済んだが、それ以外に、中には長文の意見や希望を書き込んでいる人もいた。
全体数から見れば少ないのだが、そうした長文は具体的な提案を含んでいることも多く、そのひとつひとつが実現可能であるのか、実現する必要があるのか、などを詳細に検討した上でどこまで今後の方針に反映をさせるのか、判断をしなければならない。
これは、なかなか煩雑な作業だった。
「部活で迷宮に入る前に、扶桑さんのところに合流したいって書いてあるけど」
「駄目」
佐治さんが読みあげた内容を、智香子があっさりと却下した。
「こちらが探索者としてある程度育った人たちを先方に差し出す。
それで、あちらの仕事をサポートすることと引き換えにして、こちらのやることにもつき合って貰うわけで。
なにも経験がない人を送りつけて、一方的にこちらがお世話になる形は、論外」
一種の取引であるのならば、双方にメリットがなければいけない。
と、智香子は、そう考える。
そうでないと、どちらかが一方的にメリットを受けるだけの関係は、長続きしない。
扶桑さんは、どうも松濤女子の子を補助要員としてパーティに組み込むことで、自社から出す人数を減らして稼働パーティを増やそうと考えているようだった。
実働しているパーティが増えれば、それだけ一度に育てることができる人数も増やせるわけであり、探索者を育てることを仕事をしている扶桑さんの会社にしてみれば、それだけ収益が増えることになる。
そのためには最低限、迷宮内である程度は単独行動なくらいに育っていないと、そもそも迷宮内で他の人たちを護衛することできないわけで。
まあ、〈バッタの間〉を単独で突破できるくらいが、目安かなあ。
と、智香子はそう考えている。
そこまで育っていれば、少なくとも浅い階層では、そんなに困ることはないはずだった。
「じゃあ、これは却下、と」
佐治さんは、そういって手元のメモに印をつける。
「次は、扶桑さんの会社でお金を稼げるようにして欲しいって意見が……」
「それも、却下」
智香子はいった。
「学校ぐるみでそういう斡旋をすると、いろいろややこしくなるから」
会計とか、法律とか。
と、智香子は心の中でつけ加える。
「ただ、いっしょに活動していれば、自然と向こうでも知り合いもできると思う。
そういう人たちと、校内の活動とは別個にパーティーを組んで迷宮に入ることは、可能だと返信しておいて」
智香子たち自身も、ふかけんの人たちと同じようなことをした経験がある。
こちらからはそうした活動を学校側が斡旋したりするわけにはいかないが、こうした活動が活発になれば、自然と校外の人たちとパーティを組む事例は増えるのではないか。
と、智香子は考えていた。
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