第179話 ルールとシステム

 扶桑さんの会社との関係は、智香子たちが直接先方の人たちとパーティを組んで迷宮の中に入るだけで完結するわけではない。

 むしろ、そちらの方はどちらかというとおまけみたいなものであり、迷宮活動管理委員としての智香子たちの仕事は、どちらかというと今後も扶桑さんとの会社とうまくつき合っていくための細かなルール作りなどの方であった。

「一度に何人くらいが適当なんだろう?」

 ある日の放課後、智香子は呟く。

「向こうは、多ければ多いほどいいっていってるよね」

 黎が即座に答えた。

「でも、人数が多すぎても、かえって動きが取れなくなりそうだし」

 智香子はそう続ける。

「うちの子たちが、ってことだけど」

 扶桑さんの会社の活動を手助けして、その見返りとして先方に必要条件十八歳以上の監督役を引き受けて貰う。

 智香子たちが進めている仕組みは、簡単に説明すればそういうことになる。

 保護者を含めた学校関係者と扶桑さんの会社との間で意見調整が進んだ結果、来年度から本格的に始動することになっていた。

 つまりはその前、年度が改まるまでにどうにか稼働できるところまで、こちらの準備も進めておかなければならないわけだが。

「あんまり多すぎても、向こうの人たちが扱いに困るよなあ」

 佐治さんが、のんびりとした口調でいう。

「あくまで、向こうの人たちを手伝うのが目的になっているわけだし。

 それで余計な手間が増えたら、向こうの人たちにしたらメリットがないことになるし」

「まあ、せいぜい十人以下よね、多くても」

 香椎さんも意見を述べる。

「六名から八名くらいでいいんじゃない?」

「人数的に、その辺になるかなあ」

 委員会の備品であるノートパソコンの画面を見ながら、智香子はいった。

「最大でも、八名。

 通常は五名から六名くらいを想定、と」


 智香子たちがなにをやっているのかというと、今回の件のために松濤女子探索部用のSNSに変更を加える必要があり、そのために外注する業者に対する指示書を作成しているのだった。

 プログラム関係までは、セキュリティなどの問題もあり、さすがに学校の生徒が直接手がけるわけにもいかず、外部の業者に依頼して変更して貰う形になる。

 どういう変更を加えるべきなのか、今はその細かい内容を詰めているところだった。


「基本的には、それくらいのグループでフォーム経由で申し込んで貰って」

 智香子は画面を見ながら続けた。

「その情報が向こうに送られて、時間とかの都合がつく場合はパーティが成立、晴れていっしょに迷宮に入る、と」

「希望者が一人とか二人の場合も、そういう少人数同士を組み合わせて申し込みが可能になるようにしないと」

 香椎さんが、そう指摘をする。

「あんまり不公平な仕様にすると、後で必ず揉めるから」

「ですよねー」

 いいながら、智香子はそうしたやり取りの内容をタイプしていく。

「部活外での活動になるから、なにをするにしても先方の指示に従うようにも徹底しておかないと」

「今までの感触だと、予定の仕事を消化した後でなら、時間を取ってこちらのやりたいこともやらせてくれるような感じだよね」

 佐治さんが、いった。

「この間のメイスみたいに、部活の時には試せないようなことも、そういう時にできるようになるといいけど」

「できることの幅が広がるんだよね、そういうテストができる場所があると」

 黎がいった。

「部活で迷宮に入ると、どうしてもエネミーを狩り立てることばかりが優先されるから」

 特に智香子たち、一番下の学年は、立場的に上級生たちの意向に逆らうことができない。

 逸る先輩たちを押しとどめて、

「ちょっと試してみたいことがあるんですけど」

 などと、気軽にいい出すことができない雰囲気があった。

 基本的に松濤女子探索部では、一方迷宮に入ればエネミーとの戦いがなによりも優先される。

 放課後の限られた時間内に、効率的動こうとすれば、そうなるしかない。

 それなりに合理的な指針ではあったが、その目的一辺倒ぶりがスキルの生やし方など、かえって個々の生徒たちの可能性を狭めている面もあったのではないか。

 智香子は、そう思ってしまう。

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