第202話 新学期の問答
そんなことをしているうちに、新学期になった。
「えー!」
と、智香子が説明をしたら、智香子のクラスメイトたちは盛大に声をあげる。
「信じられなーい!」
「それって、全然遊んでない!」
そういわれてもな。
と、智香子は思う。
「旅行とかは全然行かなかったの?」
「そういうのは、去年まで」
智香子は即答する。
「この年になってまで、家族サービスされても、ねえ」
そういうのは、小学生まででいいだろう。
と、智香子は思う。
基本的に智香子はインドア派であり、家族で外に出歩いたりしてもまあり嬉しくない。
それよりは家族それぞれで好き勝手なことをしている方が、楽しいし健全だと智香子は思う。
智香子が属する冬馬家は共働き家庭であり、智香子が中学に入学して以来、両親ともに実に生き生きとしている。
この年末年始も例外ではなく、ことに海外の人たちとやり取りすることが多い父親などは年越しの時にもほとんど家にいなかった。
よく、外国では国内よりも長期休暇をしっかりと取る、といった噂も聞くが、智香子の父親の業種に関しては例外であるらしい。
ともかく、そうした状態で誰かが不満を抱えているのであれば、それは確かに不幸なのかも知れない。
が、冬馬家に関していえば、この状態を誰も不満には思っていなかった。
智香子も、部活と委員会と学校の課題、その他の勉強などで、休み中もそれなりに忙しくしていたわけで、それなりに充実した時間だった、と、そう自己評価もしている。
今の生活は、特に授業関連についていえば、明らかに智香子の処理能力を上回る内容を教えられているような気がするので、智香子としてはそうした長期休暇のたびに時間をかけて習った内容を復習しておかなく必要を感じていた。
バカンスなどにうつつを抜かしているような余裕はなく、また智香子自身もそれでいいと思っている。
今の生活はそれなりにキツく思う部分もあるのだが、智香子自身はそのキツさを楽しんでいる部分もあった。
そう説明すると、同じクラスの子たちは、
「ええー!」
と、不満そうな声をあげる。
「探索部って、要するに迷宮に入ってそこにいる動物を殺し回っているわけでしょ?」
「そんなことを楽しんでいるなんて」
なにか異常なのではないか。
そういいたそうな口ぶりだった。
「そういう認識も決して間違いじゃないんだけど」
どう説明をしたものか。
そんな風に考えつつも、智香子は説明を試みる。
「そうした、具体的な行動はすべて過程であってさ。
目的ではないから」
「過程と目的って」
「なにそれ?」
探索者が迷宮の中でエネミーを殺す。
これは、否定しようがない事実だった。
しかし智香子は、これまでエネミーを殺すこと自体を楽しんでいる探索者に出会ったことがない。
「ええっとね」
智香子は、順を追って説明する。
「エネミーを殺すこと自体を、楽しみしている人ってほとんどいないよ。
大勢の探索者の中から探して回れば、中にはいるのかも知れない。
だから、完全にそういう人はいないって断定することはできないけど、でも、大抵の探索者は、エネミーを殺すこと自体は不快な仕事だと認識しているみたい。
少なくとも、わたしが知る範囲内では、ってことだけど」
探索部の部員同士ならば、特に説明する必要もない内容なのだが。
改めて、部外者にも理解できるように言葉にすることは、なかなか難しい。
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