第20話 昼休憩

 黎が提案をした通りに、適当な空き教室に入ってスマホのタイマーをセットし、そのまま床に横たわった。

 と、思ったら、意識を失っていた。

 次の瞬間、智香子は黎に体を揺すられて目を醒ます。

「タイマーが鳴っても起きなかったから」

 黎は苦笑いを浮かべながら、そういった。

「そろそろなにか食べないと、時間なくなっちゃうよ」

「正直、食欲がない」

 智香子は掠れた声でいった。

「それよりも、寝ていたい」

 どうやら自分は、自分で自覚していた以上に疲れているらしい。

 智香子は、そう思う。

「気持ちはわかるけど」

 黎は、まともに智香子の目を見据えて、そういった。

「食欲がなくても、なにかを口に入れた方がいい。

 いや、その前に、なにか飲んだ方がいい。

 これ、飲む?」

 そういって、手にしていたペットボトルを智香子に手渡す。

「ありがと」

 反射的にそういって、智香子はペットボトルを受け取った。

 冷たい、スポーツドリンクのペットボトルだ。

「でも、いいの?」

「いいよ、これくらい」

 黎はコンビニの袋を掲げながら即答する。

「自分の分は、別にあるし。

 お昼は持ってきている?」

「うん」

 頷いて、智香子は手渡されたペットボトルの蓋を開けて、中身を飲んだ。

 冷たいが、味はわからない。

「お母さんが、お弁当作ってくれた」

「じゃあ、それを食べよう」

 黎はいった。

「食べた後、少し休んだ方がいいから、もう食べはじめないと」

 智香子はのろのろと立ち上がりながら〈フクロ〉の中から弁当の包みを取り出し、近くの椅子に座ってから包みを開け、弁当を食べ始めた。

 実際に一口食べるまで、食欲などまるでなかったが、一口咀嚼をして飲み込んだ途端、猛烈な食欲に襲われて、残りの弁当を猛然とかきこむ。

「もっとゆっくりと食べないと、体に悪いよ」

 その途中で、黎にそう忠告をされた。

「焦ると、むせる」

 その瞬間、のどに食物を詰まらせた智香子は、慌てて飲みかけのペットボトルを手に取り、その中身を口の中に注ぐ。


「ふう」

 あっという間に持参した弁当を完食し、ようやく智香子は一息ついた。

 そして、

「これじゃあ、足りないかな」

 と、そんなことを思う。

 食事の量について、だった。

「普段とは運動量が全然違うから、体が栄養を求めているんでしょう」

 智香子が思っていることを察したのか、黎がそんなことをいう。

「体を動かして、休んで、食べて。

 その繰り返しで、体は強くなっていく」

「そんなもんかなあ」

 智香子は間の抜けた声を出した。

「なんだか全然、実感が沸かないけど」

 これまでなにかに熱中した経験がない智香子の認識は、そんなもんだった。

「そんなもんだよ」

 黎は、いった。

「そんなことを繰り返しながら、徐々に強くなっていくんだ」

 徐々に、かあ。

 と、智香子は思う。

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