第21話 松濤女子はどうやってパーティを成立させるのか?

 駅の改札にあるアレが、放射状に並んでいるみたいな。

 迷宮のゲートの風景について、智香子はそんな風に感じる。

 実際、そこで使用されている技術は改札口の装置と、ほとんど同じとっていい。

 探索者登録証明のIDカードがそのままICカードになっていて、ゲートの装置はカードの情報を読み取った上で、その人物を通していいのかどうかを判断している。

 前述の「十八歳以下だけのパーティ」も、もし存在していたとしても、ここを通過できない仕組みになっていた。

 規則では「一つのパーティに最低一人、十八歳以上有資格者が存在すればいい」ということになっている。

 ので、引率役の先輩に率いられた智香子たち十名ほどの新入生たちは、そのまま問題なくゲートを通過した。


「はい、注目!」

 ゲートを潜り、うにょんというなんとも微妙な感覚を伴って迷宮と呼ばれる異空間に入ったところで、引率役の先輩が片手を揚げて新入生たちに声をかけた。

「これから午後の活動に入ります。

 午前中のように、昨日のように、〈フラグ〉を使ってバッタの間のところまで移動しますので、その後はまた同じようにバッタを倒し尽くしてください。

 はい、それじゃあ行きますよ!」

 といい終えるか終えないかというタイミングで、ふと視界全体がぶれる。

 そして、次の瞬間には、智香子たちのパーティは、バッタの間の直前の、あの場所にいる。

 この〈フラグ〉というのは、「パーティ全体を任意の場所に移動させる」スキルであるらしい。

 ネットの情報を検索するなり、どうやら多少は迷宮内の事情に詳しいらしい黎に訊ねるなりすれば、もっと確実で詳細な情報を知ることもできるはずだったが、今の智香子にはそこまで細かいことを気にかけるほどの余裕はなかった。

 いずれにせよ、この〈フラグ〉で先輩方が目的地まで送迎をしてくれるお陰で、智香子たち新入生たちは軽装で迷宮に入ることができる。

 バッタだけを相手にすることが前提なら、無理をして重たい装備を身につける必要性がまったくといっていいほど、ないのだった。

 つまり、移動中に他のエネミーと遭遇する心配がないとしたら、だが。

 その〈フラグ〉というスキルのことよりも、智香子は今、智香子たち一年生を引率している先輩のことの方が気になった。

 年齢的に見て、どうみても高校生には見えない。

 年格好から見て、二十歳前後、だろうか。

 松濤女子の関係者、というより、素直に考えれば松濤女子のOGなのだろう。

 智香子の〈鑑定〉のスキルによれば、「明石未明」という名前であるらしい。

 その他に、一ダース以上のスキル名が読み取れた。

 そりゃ、そうか。

 と、智香子は思う。

 どう想定しても、松濤女子には十八歳以上の探索者が足りていない。

 その状態で無理にでもパーティを組もうと思えば、在校生だけでは到底足りず、卒業生にまで声をかける必要があるのだろう。

 平日ならばともかく、週末とか休日になら、時間の都合がつく人も多いだろうしな。

 少し考えてみれば、「そうならなくては、おかしい」くらいの理屈だった。

 今日の新入生だけでも、相当数のパーティが稼働している。

 それ以外に、二年生よりも上の人たちも活動していることを考えると、うん、どうしたって、心当たりに片っ端から声をかけて、一つでも多くのパーティが成立するように、十八歳以上の探索者をどこからか引っ張ってくるよなあ。

 ましてや松濤女子には、迷宮とほぼ同じくらいの、七十年からの歴史がある。

 単純に計算をしても、迷宮に入った経験のある卒業生の人数も相当膨大なものになるはずで、その中から都合のつく人に集まって貰うだけでも、それなりにいい状態をキープできるはずだった。

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