第195話 評価試験の必要性

「いろいろと考えるもんだなあ」

 智香子がレポート用紙にまとめた提案書にざっと目を通した後、橋本先輩がいった。

「例の円盤、まだ武器としての性能評価が終わっていないから、そっちの確認を先にした方がいいと思うけど」

「性能評価、ですか?」

 智香子はそういって首を傾げる。

「威力としては申し分ないようだけど、それだけ取り出してもあまり意味がないんだ」

 橋本先輩は、そういった。

「扱いやすいかどうか、命中率はどの程度なのかとか、そういう項目も、細かく検証しいておく必要があるわけで。

 この提案によると、初心者に使わせようとしているわけだろ。

 だったらなおさら、扱いは容易かどうか、習熟するまでにどの程度の時間を必要とするのかなど、事前に確認をしておく必要が出てくる」

 それもそうか。

 と、智香子は素直に納得をする。

 そうして基本的な事項は、智香子たちもまだ確認していない。

 だが。

「扱いやすいとかいっても、これ、回して飛ばすだけですよ」

 智香子は橋本先輩に、そういった。

 この円盤を使用する時は、常に遠心力がかかっている状態だ。

 飛ばす、といってもこれといった技能が必要になるわけではなく、指を飛ばしたい方向に傾けてやれば、勝手にそちらに飛んでいく。

 方向を指定し、漠然とそちらに飛ばすだけなら簡単で、おそらくは誰でもできるはずだった。

 その分、遠くの、あるいは小さな標的に当てようとするとかなりの熟練が必要になるはずだったが。

 智香子が想定しているような、

「多人数で弾幕を張る」

 といった使用法であれば、特に問題は起こらないように思えた。

「これ、投げるっていうより、そっちの方角に放つって感覚でしょ?」

 橋本先輩は、指先で円盤を弄びながらそういった。

「しかも、事前に回す時間を取る必要がある。

 円盤を回しながら歩くことが前提になるわけで、そうすると間違って円盤を放しちゃうことがあるんじゃないかな、と」

「間違って、ですか?」

 智香子は、そう訊き返す。

「誤作動っていうか。

 うっかりこの円盤を放して、あさっての方向に飛んでいくだけならいいんだけれど」

 橋本先輩はそういった。

「運悪く、すぐそばの、同じパーティの人に当たったりしたら、それこそ目も当てられない。

 そういうことが起こらないように、この円盤の性質とか扱い方について、もっと慎重に調べた方がいいんじゃないかなあ、と。

 それに、この手の一度に大量に使う武器に関しては、一応委員会で試用してみて問題がないかどうか確認してみるのは普通のことだから」

 使いはじめてから問題が出てくるよりは、委員会でしばらく性能試験も兼ねて試用してみたから導入する方が、事故は起こりにくくなる。

 どうやら、そういうことらしかった。


「じゃあ、実戦で使うことを想定して」

 橋本先輩がそういったので、智香子たち四人も、円盤を手にして橋本先輩に続く。

 手にして、というよりは、指でくるくる回しながら、だった。

 この円盤の性質上、力を入れて回す時間が長くなるほど、威力が増すわけで。

 片手の指で円盤を回しながらぞろぞろと学校の廊下を進み、さらに迷宮のロビーを抜けてゲートを潜る。

 そうした智香子たちの様子は、傍目にはかなり奇妙な風景だったはずだったが、特に注目を集めた様子もなかった。

 探索者という人種が、時に常識では考えられないような奇矯な言動をすることがあるのは、迷宮のロビーに来るような人間ならば誰もがわきまえていた。


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