第194話 円盤の運用法
「これ、勢いよく回せば回すほど、威力も強くなるんだよね?」
黎の円盤を弄びながら、佐治さんがいった。
「原理的には」
智香子は頷く。
「どんな仕組みかわからないけど、遠心力を溜める性質があるようだから」
「こう、どんどん回して、回し続けて」
香椎さんが、そう続けた。
「ぱっと放して、うまく命中すればどっかーん! か。
なんとうか、使いづらい」
「まったく」
この意見についても、智香子は素直に頷くことができた。
「その通りだと思う。
ただ、これ、想像通りの代物だとすると、条件がよければかなり強い攻撃力を持つことができる……と、思うんだよね。
どこまで運動エネルギーを貯め込めるのか、試験してみないとなんともいえないけど」
「運動エネルギー、ねえ」
黎は、あまり智香子のいうことを信用していない様子だった。
「こんなに小さな円盤で、そこまで強力な攻撃ができるものかな?」
「遠心力に、方向性を与えてやるような使い方だから」
智香子は即答した。
「ほんのちょいと、ええと、時間にして一分そこそこだったと思うけど、それくらいの短い時間、思いっきり回して放ってみたら、コンクリートにのめり込んでいたよ」
実際に試してみた経験があるので、そう断言することができた。
攻撃力に関していえば、問題はまったくない。
「ええと、難点が、たぶん二つある」
黎は、そう続ける。
「一つは、発射前にずっと円盤を回し続けなければならないということ。
もう一つは、命中率の問題。
これ、動き回っているエネミーにうまく当てることができるような武器なの?」
「多少の練習が必要になるのは前提にしても」
智香子は答えた。
「精密射撃よりも、誰にでも使えるってところに注目をするべきじゃないのかな、これの場合は。
わたしなら、ええと、パーティ全員にこれを持たせて、エネミーと遭遇した途端にこれをそっちに放す」
「一斉射撃、弾幕ってわけか」
佐治さんが智香子の言葉に頷いた。
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。
命中率がそんなによくないとしても、牽制の役割は十分に果たすわけだし」
「どちらかというと、初心者向けなのかなあ」
香椎さんは、そうコメントした。
「新入生とか、ろくにスキルが生えていない段階だと、ほとんどできることもないし」
でもこの円盤を使用すれば、スキルをほとんど習得していないような初心者も攻撃に参加することができる。
「専業の人たちは少人数でパーティを組むことが多いみたいだけど」
黎は、そういった。
「うちは、結構人数が多いからね。
パーティの全員がこれを使うということなら、それなりに効果はあるのか」
「即応性はないし、命中精度にも疑問がある。
けれども、未経験者にも使えるって手軽さは否定できない」
香椎さんがいった。
「ってところ?」
「結局、使い方、なんだろうな」
佐治さんも、大きく頷きながらそういった。
「これをメインにして使うような武器ではないけど、補助的に使う分には問題がない、というか」
「使えるっていうよりも、かろうじて使うこともできるって感じだね」
それが黎の結論のようだった。
「理論的には、かなり大きな破壊力を持たせることも可能だけど、そうするための条件は厳しめ。
一発あたりの威力に期待をするよりは、余裕がある時に全員でこの円盤を指に駆けてぐるぐる回して、初動の足しにする感じで」
「そのあたりで、まとめてみますか」
智香子はそういって、四人で今話した内容をレポート用紙にまとめはじめる。
後で、委員会の先輩方に相談がてら、この円盤の運用法について、提案をしてみるつもりだった。
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