第118話 探索者談義

 どうもその人は、資格取得時の研修などの例外を除いて、ほとんどソロで迷宮に入っているという探索者であるらしい。

「なんてリスキーな」

「物好きだなあ」

 黎と佐治さんとが、それぞれに感想を呟く。

「同感だが」

 秋田さんはふたりの意見に頷いた。

「ただ、探索者がやることだからなあ。

 探索者っていうのはどこかしらいっちゃっているやつが多いし」

「その人がソロに拘る理由とか、あるのですか?」

 今度は香椎さんが訊ねる。

「あるかも知れないが、動機まではわからん」

 秋田さんはそういって両腕を広げた。

「やつのログにはそこまで書いていないんだ。

 今日は何時間潜って、エネミーを何匹倒したとか、新しいスキルを習得したとか。

 そんな事務的な記述ばかりが、日付に沿ってずらずらと並んでいる」

「本当にログってわけですか」

 黎はそういって頷いた。

「真似したくはありませんけど、でも興味はありますね」

「真似しようと思っても、わたしらでは無理だけどね」

 佐治さんが、そういう。

「少なくとも、十八歳になるまでは」

 法律により、その年齢より若い人間は単独で迷宮に入れないと定められているのだ。

「リスクを承知した上で、自分でやると決めたやつは好きにすればいいと思うが」

 秋田さんはそうコメントした。

「ただ、おれとしてはあまり好きな方法じゃないね、ソロっていうのは。

 おれはいろいろな人にレベリングにつき合って貰って育て貰った人間だから、なんていうかそういう、他人を信用できませんって方法は今ひとつ好きになれない」

「そこは人それぞれでしょう」

 それまで黙ってこのやり取りを聞いていた一陣さんがそういって、軽い笑い声を立てた。

「探索者にもいろいろな人がいるんだろうし、なにか深い事情があるのかも知れないし。

 それに安全面のデメリットもある代わりに、それ以外のメリットもちゃんとあるっておーいくんらもいっていたし」

「特定のスキルを生やすのにはいいみたいだね」

 アリスさんが、そういった。

「あ、生やし方がわかっているスキル限定で、ってことだけど。

 自分のペースでコツコツやるのが苦にならない人なら、向いているんじゃないかな?」

「そういやうちのお爺さんも、一人で迷宮に入ることは多かったみたいだな」

 早川さんも、この話題に加わる。

「もっともうちのお爺さんの場合、犬をいっしょに連れてくことが多かったけど」

「犬?」

「犬?」

「犬?」

「犬?」

 その場にいたほとんどの物が同じ単語を口にした。

「犬ってあの犬か?」

 秋田さんが代表して、確認した。

「わんわん鳴いて四つ足の動物の」

「それ以外の犬に心当たりがないんだけど」

 早川さんはそういいながら頷いた。

「うん。

 多分、その犬」

「犬を連れた探索者かあ」

 アリスさんが遠い目になった。

「水利ちゃん以外にそんな、動物を連れて迷宮に入る探索者がいるとは思わなかった」

 水利ちゃん、というのは、前に聞いた〈テイマー〉の人の名前かな、と智香子は推測をする。

「しかし、犬か」

 一陣さんが腕組みをして、そんなことをいう。

「その可能性は考えたことなかったな。

 しっかしとしつければ、結構役に立ちそうな」

「いっとくけど、うちのお爺さんの場合、猟犬としてきちんと育てた犬を連れてっているからね」

 早川さんが慌てた様子でいい添える。

「別にペットの散歩先に迷宮の中を選んだわけではないから」

「それは、そうなんでしょうけど」

 葵御前が困惑顔でいった。

「わざわざ迷宮内なんて物騒な場所で散歩をするメリットもありませんし。

 それよりも今は、汗でも流して早く休憩に入りましょう。

 これ以上のおしゃべりは、また食事をしながらでも」


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