第56話 パーティ人数の最適解
探索者のパーティに定員数は存在しない。
五、六人のパーティもあれば二十名、三十名以上のパーティも存在し、時には数百名単位の大人数パーティが結成されることさえある、という。
とはいえ、最後の大規模パーティなどは流石に滅多なことでは成立せず、特殊なエネミーなり階層なりを攻略する時に便宜的に組織されることがほとんどだというが。
職業的な探索者、いわゆる専業探索者はパーティの人数を抑えようとする傾向があるそうだ。
少人数の方が連携に都合がよく、それ以上に報酬の分け前について揉めないためには、顔見知りの少人数パーティである方がなにかと都合がいいのだろう。
その逆に、別に毎日迷宮に入るわけでもない、いわゆる兼業探索者たちは比較的多い人数で迷宮に入る傾向がある。
パーティーの人数が多い方がエネミーに対する時に余裕ができ、なにをするにしても安定するから、だという。
と、どれもこれもすべて、智香子が先輩がたから聞いた内容である。
それでは松濤女子はどうなのかというと、二十名から三十名前後と、比較的大きな人数でパーティを結成する。
その理由は兼業探索者とほぼ同じで、要するに人手が多い方が危険が少なく、楽ができるからだった。
また、部活で迷宮に入っている松濤女子は、そもそも報酬の分け前を理由に争うということがない。
だからなおさら、人数を増やしたパーティで迷宮に入る傾向が強くなるのだろう。
それだけの人数がいるパーティであるのならば、そもそも総人数のうちの二割から三割ほどの人間がエネミーに対して無力であったとしても戦力的には問題にならず、特に二十階層以下の浅い階層を行き来するだけではまったく問題にならなかった。
一年生組を抜いた先輩だけのパーティであったとしても、完全にオーバーキルの状態なのである。
しばらくこうしたパーティ構成で迷宮へ入ることにはいくつかの理由があって、まず第一に一年生組のレベリングのため。
それに、経験の浅い一年生たちを迷宮内の環境に習熟させるため、ということもある。
累積効果以外の、個々のプレーヤー自身に帰属する経験的にも、迷宮に体を慣らしておく必要があった。
なんといっても迷宮内部は、娑婆とでは、まるで環境は異なる。
迷宮内はとても広く、迂闊に一人で入ればすぐに迷子になりかねなかった。
特に〈フラグ〉のような移動系のスキルを習得しないうちは、決して単独では迷宮に入らないように、と、一年生たちは先輩方に念を押されている。
確認をする方法はないのだが、ロストした人々のうちのかなりの割合が、エネミーとの戦闘以外の要因により未帰還となったのではないか。
迷宮と探索者を管理している公社は、そう主張していた。
案外、事故や探索者自身のうっかりミスなど、そうしたくだらない理由により娑婆に戻れなくなる……寸前になった、という報告が多いのである。
次に、迷宮自体の異変や変調。
迷宮にはときおり「特殊階層」と呼ばれる領域が出現することがあるが、その他にも一部あるいはすべてのスキルが使用不可能になる、明かりが消え、真っ暗になる、視覚や聴覚など、五感の変調など、直接間接的に探索者を惑わすような例も、意外に多かった。
生還できた探索者から多くの事例が報告をされているわけだから、生還できなかった探索者にも、相当数、そんな経験のおかげで迷宮から脱出することができなかった場合が含まれているのではないか。
というのが、公社が主張をするところである。
そうしたアクシデントに対応する方法は、かなり限られている。
可能な限り過去のトラブルについて調べ、事前に対応策を考えておくこと。
それと、パーティに参加する人数自体を増やして、なにかあった時にお互いに相談できる環境を整えておくこと。
いいかえれば、生きた知恵袋をできるだけ多く同行させて、不測の事態への対応力を増やすことが、推奨されてはいた。
とはいえ、公社がいう通りに大人数で郎党を組めるような探索者ばかりでもなく、パーティの人数は探索者たちの事情によってかなり差が出ているのが現状であったが。
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