第57話 安全が第一
「まあ、数は力ってのは一面の事実ではあるんだな」
その日の引率役だった松風先輩が、そういった。
「その点、うちは人数にだけは不自由しないし、その利点を最大限に活かしてるってことになる」
松濤女子の生徒たちが迷宮に入るのは、あくまで「部活」として、であった。
そのため、まず第一に優先されるべきとして「生徒たちの安全」が設定されている。
営利目的で迷宮に入る職業探索者たちとは、その点が一番の違いであった。
効率や収益性よりも、身の安全を優先しているわけであり、人数を揃えて迷宮に入るのも、しつこいくらいにレベリングに拘るのも、その第一の目的を実現するための施策であるといえる。
一年生の中にはなかなか自由に迷宮内を歩き回る機会が得られないので不満に思う者も、そろそろ出て来ているようだったが、この時期にはまだ一年生と引率役だけでパーティを組むことはできなかった。
「対エネミー戦のことだけを考えたら、今の一年生もぼちぼち十階層から二十階層くらいはクリアできる段階に仕上がってはいるんだけどね」
松風先輩は、そう説明をしてくれる。
「ただ、この時期にあんまりやりたい放題にさせちゃうと、かえって慢心する傾向があることがわかっているから。
これは憶測とか想像だけではなくて、過去の実例で、ってことなんだけど。
まあ、最初の半年くらいは多少不自由な思いをして貰った方が、かえって慎重さが身につくかな、っと」
おそらくは、これまでの松濤女子の歴史から学んだ経験則から、こうした規定ができてきたんだろうな、と、智香子は想像をする。
無理はしない。
冒険はしない。
常に慎重に振る舞う。
入る階層は実力的にかなり余裕を見て設定する……などの規定が、松濤女子には存在する。
明文化されているわけではなく、上級生から下級生へと代々引き継がれ、いい伝えられてきた不文律であった。
命よりも大事な物は存在しない。
結局、そうした規定はその一文から派生している。
自分たちの命をまず第一に考え、危ないことは絶対にしない。
ただそのために、複数の細則が存在する形である。
これまでの松濤女子の歴史の中で、迷宮内でロストしたり死傷した生徒が皆無というわけではなかったが、そうした不幸な例は全体数から比較すると驚くほど少ない、という。
それも、時代を経るに従って少なくなり、近年では十年に一度あるかないかという頻度にまで下がっている。
また、そうでもなければこの現代にまで、「部活として」の迷宮探索が、社会的に許容されることもなかっただろう。
歴代の探索部員たちは、全員で「そうなるように」心がけ、活動してきた。
その結果といえた。
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