第99話 海岸の探索者たち

 こうして様々な探索者がエネミーに対峙する様子を一度に見る機会というのは、なかなかない。

 智香子はそんな貴重な機会に、いくつかの発見をした。

 まず、相応の実力がある人は、体の動かし方や姿勢がとても綺麗に感じるということ。

 実例をあげると、ウサ耳装備の宇佐美先輩は、他の弓道部組の子たちと比較をしても、弓を射る姿勢が決まっていた。

 背筋がピンと伸びきっていささかもブレることがなく、弓を引くところから放つ姿まで、一貫して絵になっている。

 それと、これは遠目に見ただけだが、黎の従姉であるという葵御前が薙刀を振るう姿も、かなり綺麗に感じた。

 もともと薙刀などという武器を使用している探索者はほとんどいなかったので、銀色の薙刀を振るう葵御前の姿はかなり目立っていたのだが、波打ち際で縦横にその薙刀を振るう姿はまったく迷いという物が見られず、実に様になっている。

 先輩方が「別格」扱いするのも、そんな様子を見ていると納得ができるのであった。

 一年生の中では、黎の動きが一番様になっている、ような気がする。

 他の一年生たちは、どことなくぎこちなさを感じるのだが、黎は動きに無駄がなく、流れるように走りながらエネミーを次々と倒していた。

 佐治さんや香椎さんなどもかなり頑張ってはいたと思うのだが、佐治さんは攻撃の合間に妙なためを作る癖があり、香椎さんはラッコ型エネミーの小ささにどこか戸惑ったように見え、動きにいささか鋭さを欠いている。

 他に何名か気になったのは、黎と同じような短剣使いの小柄な探索者で、遠目で細部までは確認することはできなかったが、この人は短剣以外にも投擲武器をよく使用していた。

 なにかを投げているのだと気づかないうちは一見して無駄が大きく見える動きをする人だなと思っていたのだが、その人の周囲のエネミーは、だいたいその人だけで狩り尽くしていることに気づいた時、智香子は愕然とした。

 その人の行動範囲はかなり広く、智香子の目にはそんな広い範囲のエネミーをたった一人で殲滅するその人動きは、とてもではないが人間技には見えなかった。

 葵御前の場合と同様、智香子は、

「世の中にはこんな人も存在しているんだな」

 と呆れ半分に感心をするだけだった。

 二人とも、動きを目で追っていると、どうにもとても広い視野を持ってエネミーの動きや所在位置を補足し、順番に、的確に始末をつけているようにしか見えず、そうした展望の持ち方は累積効果で多少体の動きがよくなった程度で真似ができる種類の能力ではない。

 きっと、時代劇なんかに出てくる武術の達人というのは、ああいうことができる人たちのことをいうんだろうな。

 その二人について、智香子はそんな風に勝手に納得をした。

 凄い能力だとは思ったが、同時に、迷宮のような環境でもない限り、この現代社会ではほとんど必要とされない能力だ、とも思った。

 その二人とは別に目立っていたのは、少し離れた場所の海岸近くに陣取って、両手に一本ずつの槍を持って振り回していた巨漢だった。

 おそらくは二メートルを超える長身をゴテゴテとしたプロテクターで包み、さらに、やはり巨大な、ドーム型の兜を被っている。

 この巨漢は、先の二人ほどには人間離れをした動きをしているわけではなく、まだしも納得がいく動きを見せていた。

 つまりは、理解が可能な範囲内に収まっていた、というべきで、両手に持った槍先を海面上に何度も叩きつけるような動きを繰り返していたわけだが、これは海面上のエネミーを一体一体丁寧に叩いているわけだった。

 その場所からあまり動こうとしていないのは、仮に動いたとしてのエネミーを狩る効率があがるわけでもないと割り切っているからか、それとも、あの巨体であるがゆえにそこから移動をすることが負担になるからか。

 おそらくは、その両方なんだろうな。

 と、智香子は予想をする。

 ともかく、海岸線の近くで活動をしている松濤女子の探索者たちも、それぞれ各自のスタイルを確立しているように見えた。

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