第290話 集団戦闘

 世良月が、投げる。

 投射物は剣であったり槍であったり、鉄パイプであったりしたが、とにかくアトラトルを使って連続して投げつけた。

 そうした投射物は直立ネコ型エネミーがたむろしている場所に吸い込まれていき、そのまま相応の被害を出す。

 当たり所によっては必ずしも致命傷になるわけではない。

 が、これだけ密集している中に連続して投げつけられると、ほとんどがどこかに命中して被害を与えた。

 そうなってはじめて、直立ネコ型たちは自分たちが〈スローター〉氏と松濤女子勢とに挟撃されている形になっていることに気づく。

〈スローター〉氏も動き、執拗にエネミーたちへの攻撃を続けているわけで、そんな中で智香子たちがいる方向にばかり気を取られると、それこそ総崩れになりかねない。

 エネミーたちと智香子、世良月との間には五十メートル以上の距離が空いている。

 世良月の投射攻撃を受けて、エネミーたちは左右に逃げはじめた。

「浮き足だっているぞ!」

 叫びながら、佐治さんが浮き足立っているエネミーの群れに飛び込んでいった。

 大きな円形の盾を構えていて、ときおりその盾にエネミーが放った矢が当たって乾いた音をたてて、落ちる。

 エネミーたちも逃げる一方ではなく、中には弓などの武器を構えて態勢を立てなそうとしている者もいた。

 ただ、全体からみるとその人数はかなり少なく、逃げ惑う仲間たちから体当たりをされたりして、その試みも成功してはいなかったが。

 世良月と智香子は、統率が取れていないエネミーの群れに向かって容赦なく攻撃を浴びせ続けた。

「杖とか弓とか持っているエネミー、優先的に狙って!」

 智香子は、世良月にそうアドバイスをする。

 遠距離攻撃をしそうなエネミーを優先的に叩く、というのは、ヒト型のエネミーを相手にする時の鉄則でもある。

「わかってます!」

 世良月は、攻撃する手を止めることなくそう叫び返す。

 佐治さんを先頭にした四人は、あっという間にエネミーたちとの間合いを詰め、手近なエネミーから順番に攻撃を開始した。

 まだその場から逃げていないエネミーは、智香子と世良月の攻撃を受けて戦闘不能になっているか、身動きが取れない状態にある者がほとんどだった。

 その一体一体を、四人は手際よく始末していく。

 今回はエネミーの数が多すぎるので、始末しやすい者から確実に、順番に、息の根を止めていくしかない。

 そうしてエネミーが相当され、〈スローター〉氏と松濤女子組を結ぶ空間が、とりあえずの安全地帯になる。

 それでも、智香子たちは攻撃の手を緩めることはなかった。

 今は混乱していたが、生き残ったエネミーの数はまだまだ多い。

 ちょっとした油断や判断ミスから、またこちらが不利な状態に追い込まれる可能性も十分にあった。

 智香子と世良月の継続的な支援攻撃もあって、他の四人は着実にエネミーの群れを減らしていった。

 エネミーから見ると側面から智香子と世良月の投射攻撃、その反対側から、ランダムに襲いかかってくる〈スローター〉氏、さらに正面から四人の攻撃を受けている形となる。

〈スローター〉氏一人を大勢で包囲していたエネミーの群れを分断することに成功した形であり、この時点では、智香子たちの方に勢いがある。

 ただ、戦力比という観点で見ると、またまだエネミー側が圧倒的に有利だった。

 一度潰走しかけたエネミーたちも、少し時間が経つとそのことに気づいたようだ。

 その証拠に、一度智香子たちから距離置き、改めて隊列を組もうする者が出はじめている。


「おおおおおおおおおお!」

 そんな時、〈スローター〉氏が雄叫びをあげながら、隊列を組みはじめたエネミーの群れに突撃を敢行した。

〈槍〉の攻撃力補正もあり、数十体単位のエネミーがあっさりと〈スローター〉氏に弾き飛ばされてそのまま絶命する。

 さらに、〈スローター〉氏の〈威圧〉スキルによって動きを止めたエネミーに、近接攻撃を得意とする四人が襲いかかり、素早く効率的に刈り取っていった。

 智香子たちも、仲間に自分の攻撃が当たらないように留意しながら、少し離れた場所にいつエネミーに攻撃を続行する。

 まいったなあ。

 体を動かしながら、智香子はそんな風に思う。

 ヒト型のエネミーは、確かに動物型のエネミーを相手にするのと、まるで勝手が違う。

 道具やスキルを使い、思考能力を持つエネミーを相手にすることは、実質的には人間を相手にするとさして変わらなかった。

 なによりヒト型は、仲間と連携して動く。

 智香子にいわせれば、動物型エネミーと一番の違いはそこになる。

 つまり、この手のヒト型の集団と戦うことは、戦術的な思考や判断が要求されるということだった。

 戦争と変わらないじゃないか、こんなの。

 と、智香子は思う。

 それも、自分の体を使う、かなり原始的な戦争だ。


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