第52話 ドロップ・アイテムと探索者のファッション
「へえ」
智香子と八代さんとのやり取りを近くで聞いていた宇佐美先輩が、感心したような声を出した。
「今年の一年は面白いこと考えるなあ。
エネミーなんて、経験値とドロップ・アイテムをくれる的くらいにしか考えたことなかったけど」
「いや、みんながみんな、あんたほどには単純じゃないよ」
宇佐美先輩の発言を引き取ったのは、陸上部と兼部している四条先輩だった。
「アホっぽいのはそのウサ耳だけにしておきなさい」
「アホっぽいいうな!
ってか、このアイテム・ドロップした時にわたしに押しつけてきたのはあんたじゃないか!
宇佐美だからウサ耳、ってその発想自体のがアホっぽいよ!」
「まあ、このウサ耳のいうことは無視していいから」
四条先輩が、智香子にいう。
「思うに冬馬さんは、迷宮と娑婆とを同一の物だと思い込み過ぎるんじゃないかな。
八代さんもいっていた通り、基本、この中と外では、違うことの方が多いから。
っていうか、ふざけているよね。
エネミーを倒せば倒すほど強くなったりスキルが生えたり、たまに倒したエネミーがアイテムに変わったり。
ゲームかっつうの。
あんまり真面目に娑婆の基準をこっちに持ち込むと、どんどん身動きが取れなくなるよ」
「そうそう」
四条先輩の言葉に、宇佐美先輩がうんうんと頷いている。
「エネミーなんてね、あれ。
経験値の元、くらいに軽く考えるくらいで丁度いいくらいで」
「いや、あんたはもう少し頭を使いなさい。
このシューターハッピーめ」
「なに、そのシューターハッピーって」
「トリガーハッピーっていうじゃない。
鉄砲撃てれば幸せって人種のことを」
「……わたし、別に弓を放つことにそこまで快感に思ったことないぞ」
「どうだか」
「それをいうならあんたこそ、この迷宮の中でまで陸上用のユニフォームを着て。
なにそれ露出狂なの?
女ばかりのパーティでセパレート着ているのって、ないわー」
「これが一番動きやすいんだから仕方がないでしょうが!
こっちはスピード勝負の前衛だし、見た目よりも機能だろう!
それをいうのならあんたのウサ耳だって……」
「ウサ耳いうな!」
四条先輩と宇佐美先輩は、どんどん元の話題からずれた方向へと進みながら二人だけの空間を作り出している。
仲がいいんだろうな、この二人。
智香子は、そう思った。
ちなみに、宇佐美先輩は探索者用の保護服でもかなり上質な、つまり、深層のエネミーにも対抗可能な上級者用の保護服を着用している。
この手の上質な保護服というのは全身をぴったりと包み体の線が浮き出るボディースーツ型がほとんどで、そうした保護服を着徴した上ウサ耳型のアイテムまでつけている宇佐美先輩は、バニーガールに見えないこともなかった。
外見的なことをいえば、どっちもどっちだよなあ、とも智香子は思う。
このウサ耳型のアイテムに限らず、ドロップ・アイテムの中には常識的な嗜好でいえば「かなりふざけた」デザインの物もときおりポップして、そんな頓狂なデザインのアイテムに限ってユニークな特性や性能を持っている傾向がある。
そのため、何かの冗談ではないかと思うほどとち狂った格好をしている探索者が実は歴戦の凄腕であるような場合も、ままあるのだった。
智香子に与えられた魔法少女風の杖など、実は可愛いものだったりする。
「まああの二人の漫才はこっちに置いて」
八代さんは、無理矢理話題を戻した。
「娑婆と迷宮ではそもそも別空間なんだから、深く考えすぎてもしょうがないっていうのは本当。
エネミーを倒すことに抵抗があるから、どうしてもそのことに納得ができずにそのまま探索者を止めちゃう初心者も、大勢います。
冬馬さんがどんな結論を出すにせよ、しっかりと考えてね」
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