第167話 委員会のお仕事
「ドロップ・アイテムの回収と管理、換金、そこで得た収入の管理」
その後、智香子たちはまた隣の千景先輩がいる教室に戻って説明を聞く。
「兼部組への予算分配、購入した備品の管理。
それから、外注さんとの交渉。
これは、会計監査の人とかそれに探索者用品のメーカーからテスターを頼まれることもあって、そんな時には委員会が窓口になります。
後、これは滅多にないですが、アプリなど新規のソフトウェアを開発する時には、その発注なんかも委員会がします。
全部ひっくるめて、迷宮に入る以外の雑事全般を委員会がやっている感じ」
「は、はあ」
智香子は生返事をするだけだった。
千景先輩の説明がわからない、というわけではない。
むしろその逆に、理解できるからこそ智香子はその内容に呆れていた。
「それ、全部ですか?」
「そうね」
千景先輩は、あっさりと頷く。
「全部、委員会の仕事」
「ずいぶんといっぱいなんですね。
その、仕事の量もさることながら、種類が」
「内容的に多岐に渡っていることは、否定できないね」
千景先輩は、そういって頷いた。
「でも、誰かがやらないと他の子たちも迷宮に入れなくなるから」
「なにも、委員会で引き受けなくても」
智香子は、そう続ける。
「たとえばアイテムの管理や換金とかは、それこそパーティ単位でさせればいいじゃないですか。
自分の面倒は自分で見る、っていうか」
「専業の探索者ならば、そうするのが本当なのでしょうけれども」
千景先輩は、即答をする。
「ただの部活として迷宮に入っているうちの子たちには、ちょっと荷が重いかな。
それに、兼部組の子たちなんかは本命の部活動が忙しくて、そんなことまでやっている余裕がないと思う」
部活。
それと、兼部組の存在が、委員会の仕事を増やす要因になっているようだった。
人数からいえば、智香子のような探索部にのみ所属している生徒よりも、他の部活でも活動している兼部組の方が多数派であることは、智香子も知っている。
それもこれも、ほとんどの雑事をこうして委員会が引き受けているからこそ、可能なことなのだろう。
「その昔は、委員会の仕事も今ほどは多くなかったってことだけどね」
千景先輩は、説明を続ける。
「今は携帯とかパソコンがあるから。
事務処理なんかはほとんど自動でできるし、そういう部分が効率化された結果、かえって委員会が担当をする範囲が広がったって聞いているけど」
携帯とかパソコンが普及する前、というと、それこそ智香子自身さえ生まれていないような大昔のことになる。
そんな不便な時代は、不便だからこそそこまで委員会だけで雑事をこなすというよりは、迷宮に入る生徒全体で分担して支え合ったのだという。
たとえば「その日、パーティを組むメンバー」の管理ひとつとっても、現代ではSNSで出席できそうな人間を把握することが容易だったが、携帯がない時代は直接生徒同士が顔を合わせて予定を確認していたわけで。
今よりは不便な分、コミュニケーションの濃く、同時に余計な手間が必要な時代だったのだろうな、と、智香子は想像をする。
それだけしょっちゅう顔を合わせていれば、そうした雑事も自然と分散して手伝ってくれる流れができてしまうのだろう。
「仕事、委員会に集中しすぎたと思います」
智香子は、その場ではそんな控え目ないい方をした。
「まあ、そうなんだけど」
千景先輩も、智香子の意見を否定はしなかった。
「でも、だからこそ、卒業してからその経験が生きてくるって側面もある。
統計的な事実として、委員会を経験した卒業生は社会に出てから活躍する人が多い。
名が通った企業で重職に就いたり、それに自分で会社を作ったり」
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