第166話 メイスの使い方
「で、この状態で」
智香子は屈んだままの体制で両手をたかだかと掲げる。
「〈フクロ〉から、さっきのメイスを取り出します」
掲げた手の中に、さっきのメイスが出現した。
重い、なんてものではない。
おそらくは智香子自身の体重の数倍、一トンを超えているかも知れない質量を、智香子はしっかりと両手で持った。
ここは迷宮の影響圏内。
ただこうして持っているだけならば、累積効果によって強化されている智香子でもどうにか可能。
その上で、智香子はメイスを持つ手をゆっくりと動かして、メイス持ったまま前方に落とした。
ドゴン!
と、轟音を発して、メイスが強化された床面にのめり込む。
やっぱり、と、智香子は思う。
こんな重い物、まともに持ちあげたり振り回したりするのは、いくら探索者の身体能力が強化されているといっても無理。
特に、エネミーと相対しているときというのは、機敏に動く必要があるわけで。
でも、こうして持つだけ、落とすだけならば、どうにかなる。
「チカちゃん」
その様子を、目を丸くして眺めていた者の中で、黎が最初に口を開いた。
「ひょっとして、なにか物騒なことを考えていない?」
「物騒というか」
智香子は平然と答える。
「ひょっとすると、たった今。
わたしにも使える攻撃法が、見つかったのかも知れない」
そういう智香子は、うっすらと笑みを浮かべている。
「先輩」
それから智香子は、名瀬先輩の方に顔を向けて問いかけた。
「ここにある装備は、使わせて貰っても構わないんですよね?」
「あ、ああ」
名瀬先輩は、智香子に気圧されたような表情で頷いた。
「どうせ余っているものだから、問題はないんだけど。
でもそのメイス、かなり重くて取り扱いを間違うと……」
「使っている人自身が危ない、っていうんでしょ?」
頷きながら、智香子はそういう。
「わかってます。
でもこれ、わたし、まともに振り回すつもりはありませんから!
いざって時の護身用っていうか、普段は〈フクロ〉の中に入れっぱなしで、本当に危ない時だけ、さっきみたいにエネミーの上に落とすだけなので」
武器として振り回すつもりがないのであれば、問題はない。
智香子は、どうやらそういいたいようだった。
「あー」
名瀬先輩は、しばらくそういってなにか迷うようなそぶりを見せた。
「まあ、いいか。
そいつのうまい使い方を思いついたのは、確かだし」
うまい使い方。
なのだろうか、と、名瀬先輩は思う。
智香子は、あのメイスを武器というより単なる重量物として使用しようとしている。
あのメイスは重すぎて誰にも使えなかったほどだから、それをそのまま落下させただけでも、その下にいたエネミーはかなりのダメージを受けるはずだった。
打ち所が悪ければ、即死も十分にあり得る。
でもそれって、そういう使い方って、根本的な部分でなんか違ってないか?
という疑問に、名瀬先輩は捕らわれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます