第165話 武器選び

 槍や杖、弓や剣。

 それに盾やヘルメットらしい防具類や、アクセサリーなどもある。

 どれも、専用の棚に展示されていて、一覧しやすい状態だった。

 例外的に、隅の床の上に放置されている物もあったが、智香子がそこに〈鑑定〉スキルを使うと、どのアイテムも「重量物」という表示が出る。

 つまりは、探索者も力でも容易に扱えないほどに重い物だから、床に直置きされているらしかった。

 その床も、そらくはそうした重量物用に補強をされているんだろうな、と、智香子は想像をする。

 千景先輩がそんなことをいっていたし。

「ねえ、冬馬さん」

 そんなことを考えている智香子に、香椎さんが声をかける。

「この剣、〈鑑定〉してくれない」

「ええっと」

 智香子は香椎さんが手にしている剣に視線を凝らす。

 刃渡り七十センチほどの両刃の直剣。

 智香子が香椎さんから受け取って鞘から抜くと、研ぎ澄まされた美しい刃紋が露わになった。

「名前は、〈見かけ倒しの剣〉」

 智香子は、〈鑑定〉スキルで読み取った情報を口にする。

「攻撃力はそこそこだけど、一度なにかを斬るとその場で刃が砕けるって」

「なに、それ」

 香椎さんは軽く顔をしかめる。

「使い捨てでも攻撃力が高ければいいんだけど、それじゃあ持ち歩くメリットなんにもないじゃない」

「冬馬さん冬馬さん」

 今度は佐治さんが、智香子の前に持ち出した盾を差し出す。

「これも〈鑑定〉してみて」

 智香子はその盾にも、〈鑑定〉スキルを使う。

 少しして、

「〈鈍重の盾〉、だって」

 智香子はいった。

「防御力はかなり高めだけど、そのかわり、使用者の動きをかなり遅くする」

「かなり遅くって、具体的にどれくらい?」

 佐治さんが訊ねた。

「今の半分以下、だって」

 智香子は即答する。

「じゃあ、駄目だなあ」

 佐治さんはしょんぼりとした様子でそうこぼした。

「そこまで藩王が遅れたら、いくら防御力だけがあがっても迷宮の中では命取りだよ」

「その盾を持っていたらエネミーの動きについて行けないってことは、確かだろうね」

 黎が、口を挟んできた。

「で、チカちゃん。

 今度はこれを」

 そういって黎は、短剣を智香子の前に差し出す。

 黎から短剣を受け取った智香子は、鞘から抜いてその刃をまじまじと見つめた。

 片刃で、刃が緩やかに湾曲した短剣だった。

「銘は、〈逆恨みの剣〉。

 極めて高い攻撃力を持つが、攻撃をするたびに、相手に与えたダメージの倍以上のダメージを使用者に与える、だって」

「予想はしていたけど、見事に使いたくはないなあ」

 黎は、辟易した表情でゆっくりと首を振った。

「倉庫の中で眠っているだけのことはある。

 チカちゃんは、なにか興味がある物はないの?」

「うーんと、ね」

 智香子は〈鑑定〉スキルを使用しながらざっと倉庫内を見渡す。

 そして、教室の隅で顔を止めた。

「強いていえば、これかなあ」

 そこまで歩いて行き、智香子は屈んでその武器に手を伸ばす。

「あ」

 その様子を見て、名瀬先輩が声をあげた。

「その辺に置いてあるのは、高等部の三年生でも扱えないやつだから!

 迂闊に持ちあげようとすると、それだけで腰を痛めるよ!」

「わかっています」

 智香子はそういって、屈み込んだ姿勢のままそこに置かれていたアイテムに手をかけた。

「これでも〈鑑定〉持ちですから。

 ここにおいてあるのは、ちょー重いんですよね。

 でも、下手に持ちあげようとしなければ問題はないわけで」

 そういって智香子は手前のメイスに手を触れて、そのまま自分の〈フクロ〉の中に収納をする。


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