第164話 倉庫
「例の、見学の子たち?」
瀬名先輩は千景先輩の方を見て、そう確認をする。
「そう」
千景先輩は、その場で頷いた。
「見学の子たち」
「そうかそうか」
なぜか、瀬名先輩は意味ありげな笑みを浮かべる。
「だったら、丁重に案内しないとな。
わたしは高等部二年の瀬名斉。
一応、委員会の一員」
丸顔の、がっしりとした体格の先輩だった。
智香子たち四人は慌てて自己紹介をはじめる。
「倉庫っていっても、隣の教室だから」
自己紹介が終わると、瀬名先輩は智香子たちを急かすように案内をはじめる。
「ただちょっと、この学校の他の場所よりもセキュリティが厳しくて重量物でもおけるように床が補強されているけど」
そんな説明をしながら、瀬名先輩は先頭に立って教室を出て、そしてすぐ隣の教室へと向かう。
途中、ガードマンに身分証明書の提示を求めたれていたが、その要求にも当然のように応じていた。
確認を求める側も求められる側も、もう慣れっこになっているんだろうな、と、智香子は思う。
ここのガードマンさんが何人でこの場所を担当しているのか知らなかったが、おそらく委員会の人たちなら顔見知りになっているはずなのである。
来たときと同じように智香子たちも学生証と探索者カードとを提示して、そのまま隣の教室へと入っていく。
どうやら出入りがあるたびに施錠をする決まりであるらしく、智香子たちの身元を確認し終えたガードマンがその場で鍵を開けてくれた。
倉庫と呼ばれる教室は、窓が完全に塞がれているらしく、真っ暗だった。
瀬名先輩が慣れた様子で入り口近くにある照明のスイッチを入れ、すぐに明るくなる。
「おお」
佐治さんが、小さく声をあげた。
その教室内部は、確かに「倉庫」と呼ぶのにふさわしい様子をしている。
「ええっと、こっちの金庫がね。
小さくて値段が高いアイテムを保管しておく用のね」
瀬名先輩が奥の方においてあった巨大な金庫を指さして説明してくれる。
「かなり古ぼけて見えるけど、鍵の部分は何回か取り替えられていて、今のは暗証番号と指紋、光彩なんかを確認した上、委員会の中でも限られた人でないと開けられないようになっている」
いいながら、瀬名先輩は自分自身よりも背が高い金庫の扉にとりついてなにやら素早く操作をして、その扉を開いた。
「で、これが金庫の中身ね。
まあ、今は半分くらいはからっぽだけど、あと半年も経って来年の春になる頃にはちょうど満杯になるはず」
瀬名先輩はそんな説明をしながらも、自分の〈フクロ〉から出した布の袋をそのまま金庫内のあいている棚の上に置いた。
「で、この袋もちゃんと中身を何度も確認した上封をして、ここんところのタグに整理番号と今日の日付を書いているわけで。
この金庫は開けたらできるだけ素早く用件を済ませてすぐに閉めることになっている」
その説明通り、瀬名先輩は智香子たちが見守る前で金庫の扉を閉めてしっかりと施錠をした。
「でまあ、こちら側に整頓されて展示されているのが、今は使用者がいない装備品になるね」
金庫に背を向けた瀬名先輩は、教室内の他の部分を漠然と両腕で示して、そういう。
「〈鑑定〉持ちの子、いたっけ?
確認してみればわかると思うけど、なんらかの理由で扱いづらかったり性能的に半端だったり、あるいは高性能でも使用可能となる条件が厳しかったり。
まあそんな理由で放置されている子たちになるね。
もうしばらく様子を見て、誰も欲しがらないようだったら売りに出されることになる……って、説明、もう聞いた」
「聞きました」
智香子は反射的に返答をした後、装備品に手を伸ばしかけ、瀬名先輩の方に顔を向けて確認をする。
「これ、手に取ってみてもいいですか?」
「ああ、いいよ」
瀬名先輩はあっさりと頷く。
「気に入ったのがあったらそのまま使ってもいいくらい。
ここへの出入りが制限されているのはあくまでセキュリティの都合だから。
装備品に関しては、ここにある時点で余っているわけだから、誰でも希望すれば使える」
そう聞いて、智香子以外の一年生三人も競うようにして装備品を向かっていく。
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