第335話 指輪のゆくえ
「論より証拠、でしょう」
智香子はそういって、その場にいた全員に自分でも〈叡智の指輪〉を填めてみることを勧めた。
「一個だけだと違いはそんなには実感できないから、できれば二個以上つけてみて」
とも、いい添える。
他の五人は、他の子たちの顔色をうかがいながらもそろそろと机の上に無造作に置かれた〈指輪〉に手を伸ばす。
「確かに一個だけだと、そんなに違いは感じないかな」
「でも、二個以上つけると、かなり違うね」
「いきなり、自分以外の周囲がのろくなったように感じる」
「これ、いっぱい着ければつけるほど、効果もあがるのかな?」
「多分ね」
「自分で試してみるといいよ」
最初のうち、恐る恐るといった感じで指輪を指に填めていた五人も、次第に調子に乗ってくる。
「三個着けると、これはもうかなり違う」
「前衛の人たちが好んで着けたがるの、わかるわ」
「このアイテム、奪い合いになるんじゃないか?」
「そんなにレアなアイテムでもないからなあ。
割合頻繁にポップするし」
「使いたい人も多いけど、出て来る数も多い。
需要と供給がいい具合に釣り合って、あまり値上がりしていないパターンか」
「でもなんで、〈叡智の指輪〉なんだろう?
〈加速の指輪〉とか〈速度の指輪〉ではなく」
「物理的に加速しているわけじゃないから、かなあ?」
「これ着けた時に加速しているのは、あくまで、装備者の意識周りだけだよね」
「と、思うけど」
「これ、累積効果で身体能力があがっている探索者が装備したから、その効果を活かせるんだよ」
「累積効果がない人だと無理かな?」
「意識が加速する効果自体は、実感できると思う。
だけど、それだと体の方がついていけないっていうか」
「ああ。
体の方は、思った通りの速度で動かない、と」
「もっさりと重たい体の中に、思考だけが加速した意識が取り残される感覚になるんじゃなかな?」
「自分の体が自体が、意識の牢獄になっちゃうわけか」
「それはそれで、あまりぞっとしないね」
智香子たちは、例のロスト事件の際に、かなりまとまった累積効果を稼いでいた。
単純に累積効果の多寡で比較をすれば、多分、校内探索部の部員の中でも、かなり上位に来るのではないか。
ただ、探索者の強さとは、そうしたスペックだけでは計れない面も多々あるので、単純にそんな比較をしてもあまり意味がない、という面もあるのだが。
ともあれ、結果として、智香子たちは多少、意識だけが加速をしても、それを反映することが可能な身体能力をすでに獲得していた。
そういう土台がない状態で、この指輪だけを装着しても、それこそ宝の持ち腐れになるのではないか。
そうした推測を、智香子はみんなに説明する。
「ある程度経験を積んだ探索者じゃなければ、装備する意味がないアイテムかあ」
佐治さんが、いった。
「そうなのかも知れないね」
「それでこの指輪、誰が使います?」
柳瀬さんが、他の全員を見回して、そう訊ねる。
「誰が装備しても、それなりにメリットがあるアイテムだと思うけど」
「とりあえず、十個はチカちゃんに預けよう」
真っ先に、香椎さんがいった。
「両手の指全部にこの指輪を装備すれば、これはもう最強になるんじゃないかな?
防御面で一番不安があるチカちゃんの強化を真っ先に考えるべきだと思う」
「それだけ加速させておけば、いざという時も自分で危機を回避できる、か」
黎が、もっともらしい表情をして頷く。
「この中で誰を優先して強化するか、っていったら、それはチカちゃんになるわけだけど」
「危機管理というとあれだけど、いざという時に、一番反撃の手が限られているのがチカちゃんだから」
佐治さんは、そんな指摘をする。
「打撃力がないというのは、いざという時には痛いよね。
ロストの時も、〈隠密〉持ちのエネミーには何度もヒヤヒヤさせられたし」
「それに、チカ先輩をマックスまで加速させておけば、それ以外にもなにか別の使い道を考えてくれるでしょうし」
柳瀬さんまでもが、そんなことをいう。
「この中で誰が一番この指輪を使いこなせるかっていったら、おそらくはチカ先輩になるんだろうし」
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