第271話 〈投擲〉スキル

 智香子が他の松濤女子の子を先導して、さらにその後に〈スローター〉氏が続く。

 そういう形で、しばらく進んだ。

〈察知〉スキルを持っている智香子は、自分がエネミーの群れに近づいていることを認識していたが、他の子たちはそうとは認識できない。

 智香子たちは普段、三十名以上の人数でパーティを組んでいるわけだが、今日はその数分の一にしかならない少人数パーティである。

 その上、まだ迷宮に入る機会が少ない一年生二人も含んでいる。

 そうした諸々の要素も考えた上で、智香子は無理をしない範囲でエネミーの元へと急いでいた。

 パーティは、生き物。

 そういう側面は、確実にあった。

〈スローター〉氏が同行している以上、戦力に不安があるはずもなかったが、それだけで智香子たちの心理的な安定が保証されるわけでもない。

 はじめてパーティを組む相手のこと肌で知るためにも、早い時点でエネミーとの戦闘を経験しておきたい。

 智香子としては、そのように考えていた。

〈察知〉スキルで道の形とエネミーの位置を確認しつつ、智香子は走り続ける。

 そうして数分後、唐突に、背後から前方に向けて、いくつもの風切り音が立て続けに通過していった。

 首だけをそちらに向けて確認すると、背後の〈スローター〉氏が、両腕をしきりに動かしている。

 腕の動きが速すぎて、肩から先がよく見えないほどだった。

 どうやら、〈投擲〉スキルを連発しているらしい。

 智香子よりも先に、〈エネミー〉の正確な位置を把握した、ということか。

 走りつつ、智香子はそう判断する。

 智香子は例のウサ耳型アイテムを装備している状態であったが、それでもまだ〈スローター〉氏の〈察知〉スキルの方が、知覚できる範囲が広くて正確であるらしかった。

 少しすると智香子からかなり遠くに、目当てであるエネミーの一団が見えはじめた。

 この階層に普通に出没することが多いとされる、カエル型の群れだ。

 小型のエネミーに分類されるが、全長は大きな個体で半メートルほどにもなる。

 カエルとしてみると、かなり大きく感じた。

 そして、このサイズのエネミーではありがちなことに、単体で出没することはほとんどなく、数十から百体以上の群れ単位で出没することがほとんどだった。

 この群れも、ざっと見て百はくだらない個体数の群れであったが、智香子がその存在を視界に入れた時点で、そのうちの三分の一ほどが始末されている。

 当然、〈スローター〉氏の〈投擲〉スキルがもたらした結果、だった。

 それだけのカエル型が短剣で貫かれ、あるいは手斧で潰されている。

「うわ」

 佐治さんが、声をあげた。

「ほとんど命中。

 無駄玉がないって」

 驚嘆の、声だった。

 実際、〈スローター〉氏が投げた武器は、必ずエネミーに命中して致命傷を与えている。

 武器だけがむなしく転がっている、という痕跡は、少なくともざっと見た限りでは見つけられなかった。

 うえ。

 と、智香子は思う。

 弓道部との兼部組が使う〈梓弓〉も、これほどの命中率ではないように思う。

 前に世良月が〈スローター〉氏の方法について、

「〈投擲〉スキルの比重が大きい」

 といった意味のことをいっていた。

 その言葉が、説得力を持つ結果だった。

 智香子がそんな分析をしている間にも、〈スローター〉氏は〈投擲〉スキルを連発している。

 見る間に、健在なエネミーの数が減っていった。

 智香子たち松濤女子の攻撃方法は、だいたい近接戦闘向けに偏っていたから、このままだと智香子たちが手出しする余裕もなく、〈スローター〉氏だけでこの群れを全滅させてしまうかねない。

 それも、ちょっとな。

 そのことに抵抗をおぼえた智香子は、ちょうどいい間合いに入ってきたので、〈ライトニング・バレット〉のスキルでエネミーを攻撃しはじめる。

 この〈ライトニング・バレット〉は、あまり高い殺傷能力があるわけではないが、このくらいのサイズのエネミーであればどうにか始末できる威力を持ったスキルだった。

 仮に仕留め損ねたとしても、命中すれば感電してしばらく動けず、パーティの他の子たちがとどめを刺してくれるはずである。

 攻撃と支援、両方の効果を期待できるスキルだった。



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