第151話 母の反応
「試しにやってみればいいじゃない」
夕食事に相談をしてみた結果、母親の反応は鷹揚というか無責任なものだった。
「どうせ部活がない時は暇しているんでしょ?」
「いや、暇ということもないんだけど」
智香子は不明瞭な小声で反論する。
「勉強とか宿題とかさ」
これは、嘘ではない。
小学生だった時とは違い、学校側から出される課題とは別に予習や復習にある程度時間を割かないと授業についていけなくなる。
これまで半年間松濤女子に通ってきた結果、智香子はそうそう感触を得ていた。
それはもう、ひしひしと。
中学受験をくぐり抜けてきた同級生たちはそれなりに精鋭であり、学力とか潜在的な能力では智香子と同等かそれ以上。
つまりは、手を抜くとあっさりと落ちこぼれる恐れがあった。
智香子としては、そんな事態は極力避けたい。
「でも、いい経験にはなると思うんだよね」
智香子の母は、味噌汁を啜る合間にそういう。
「だってその部、総勢でかなりの人数になるんでしょ?」
「多分」
智香子はあっさりと頷いた。
ええと。
兼部の人なんかも含めると、一学年に百名以上下手をすると二百名前後いるはずだから。
「下手をすると、千人を超える」
「ほらね」
なぜか智香子の母は、得意げな表情になる。
「それだけの人数が所属しているとなると、備品や予算なんかもそれなりの規模になるはずで。
で、その委員会、だったっけ?
それらを管理しているところに入って活動をすれば、かなりいい経験になると思う」
「あ」
智香子は、虚を突かれた気がした。
「そうか。
委員会、規模自体が大きいんだ」
管理するべき人数が多い、ということは、つまりは仕事も多くなる。
ドロップ・アイテムや装備品などの管理も、種類が多いだけに手間がかかるのではないか。
さらにいえば、換金可能な、それも物によってはかなり高額なアイテムなどの管理もしているわけで。
そうした諸々を考えて、それだけの仕事量を中学生や高校生だけで回しているというのは、ただそれだけで凄いのかも知れない。
「そういう面からは、考えたことはなかったな」
瞬時にそこまで考えて、智香子はそう呟く。
これまで意識してこなかったが、うちの委員会ってなにげに凄いんじゃないのか?
智香子の母が「いい経験になる」というのも、客観的に考えて素直に頷けるのだった。
だって、智香子のような中学生が、それだけ大きな組織の運営に関わるような機会って、ほとんどない。
智香子に取っては身近な存在でありすぎたせいで、これまで疑問に思うこともなかったのだが、松濤女子の迷宮活動管理委員会は、明らかに異常だった。
先生たちから監督されているとはいえ、実質的には中学生と高校生だけであれだけの規模の組織を管理、運営している。
しかも、委員会の活動には、多額な現金を取り扱うことも必然的に含まれているわけで。
探索部全員が迷宮から日々持ち帰ってくるアイテムの総額が、果たしてどれほどの価値になるのか、智香子はうまく想像できなかった。
漠然と「とんでもない価値がある」と想像することはできたのだが。
本当に高価なアイテムを持ち帰ってくる可能性はごくわずかなはずだったが、普段から稼働している人数が人数である。
塵も積もれば、というやつで、総額ならばかなりの金額になってしまうだろう。
武器や装備品のアイテムに関しては、すぐに換金をせずに保管しているようだが、それらを除いてもかなりの額になるはずだった。
まだ浅い階層をうろついている智香子たち一年生でさえ、何回か迷宮に入れば金貨や銀貨を拾って持ち帰る機会に恵まれる。
ざっと考えても。
と、智香子は想像をする。
換金をしたアイテムの分だけでも、年間で、億円単位の収益にはなるのではないだろうか?
中高校生の女子だけでそれだけの値打ち物を日々管理している、と考えると。
うん。
やはり、異常だ。
と、智香子は結論する。
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