第150話 帰宅後の煩悶

 結局、その日は明確な返答を避けたまま千景先輩と別れて、シャワーで汗を流してから帰宅をした。

 たいしたことはやっていないんだけど、なんだかいろいろなことを見聞した一日だった。

 地元の駅から自宅へと帰る途中、智香子はそんな風に思う。

 情報量が多いというか、なんというか。

 身近にこんなことを見聞している中学一年生も、そんなにいないだろうなあ、などとも思う。

 扶桑さんの会社関連だけでも、今の智香子にとってはヘビー過ぎる内容に思えた。

 その上。

 委員会、かあ。

 と、智香子は思う。

 千景先輩から受けたお誘いについて、智香子の中ではほとんど断る方に傾いているのだが、ただひとつ引っかかるのは在庫の中から好きなアイテムを優先的に回して貰えるという内容だった。

 無論、千景先輩がどこまで本気でいっているのかわからない以上、そして本当に委員会にそんな権限があるのかわからない以上、無批判に、額面通りに受け取るのは危険なわけだが。

 どうしようかな。

 自宅に入り、自宅にも入って制服から私服に着替えた智香子は考える。

 メリットはそれなりに存在する。

 だが一方で、部活以外の用事でも放課後に長く拘束をされることが前提となる委員会にも所属することは、今の智香子にとっては負担が大きかった。

 智香子は両親の方針によって、家事とオフィスアプリの扱いを教えられていた。

 掃除や洗濯、それに簡単な食事を自分で作ることができ、それにオフィスソフトの基本操作くらいは前提としてできないと、これからはまともに過ごせないから、ということらしい。

 逆にいうと、この程度のことが普通にこなせれてさえば、どこかしらで仕事にありつける、ともいっていた。

 その正誤や是非はともかく、自分の年齢だと確かにオフィスソフトを使える人は少なくなるかな、とは、智香子も思う。

 前提として、同級生たちを見ていると、スマホやタブレットなどはともかく、パソコンに触る機会が極端に少ないようだし。

 社会に出てからならばともかく、オフィスアプリなど、普通の中高生が触れる機会があまりない。

 強いていえば、ワープロくらいならば日常的の中で使う機会があるのかも知れないが、それだってあくまで必要な機能のみに限定をして使っている場合がほとんどだろう。

 智香子のように、薄く広い範囲で基本操作をおぼえている、という人は、少なくとも同年配では少ないはずであった。

 まさか、それが徒になるとはなあ。

 自室のベッドに身を投げ出して、智香子は思う。

 いやそもそも、なんで千景先輩はそのことを、智香子がオフィスアプリを扱えるのだろうか。

 少し考えて、智香子はその原因にすぐ思い当たった。

 なんのことはない。

 入部したばかりの春先、アンケート用紙を配られて、その時に使ったことがあるアプリについても回答していたのだ。

 その時の智香子は、その程度のITスキルは誰でも持っているものと思い込んでいたので、正直に回答してしまい、それが今になって目をつけられる原因となってしまっている。

 あああ。

 と、そのことに思い当たった智香子は思った。

 あの時に、うまく誤魔化していれば。

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