第356話 戦闘中の会話
「いや、そりゃ」
智香子がそんな不満を表明すると、佐治さんが飄々とした口調で応えた。
「なんか問題が起こったとき、解決策を思いつくのはたいていチカちゃんだしなあ」
「あと、その場その場での状況判断能力とか、分析能力も込みで」
香椎さんまでもが、そう付け加える。
「迷宮内でも、チカちゃんの判断に何度もたすけられているわけだし。
ぐいぐいみんなを引っ張っていく、わかりやすくリーダーシップを発揮するタイプではないにせよ、この中で一番リーダーに近い人は誰かっていったら、やっぱチカちゃんになると思うけど」
そんなことをいいながらも、この二人はエネミーの群れに突入して果敢に攻撃を続けている。
これくらい浅い階層に出て来るエネミーは、もはやこの二人の敵ではなく、接触すると同時にあっけなく弾き飛ばされている状態だった。
二人の反応速度とエネミーのそれとがあまりにも差があり過ぎるため、一種の無双状態になっている。
累積効果により身体能力が向上する迷宮の中では、こうした極端な能力差が発声することは珍しくはなかった。
ある意味でこの二人よりも凄いのは黎で、二人と比較して防御を捨てて俊敏さや攻撃力を伸ばした結果、この時点でこの階層に出現するエネミー程度ならば出会い頭に瞬殺できるようになっている。
黎は二振りのドロップ・アイテムである剣を両手に装備することを標準的なスタイルにしているわけだが、その両手の剣を器用に使いこなしてほぼ一撃でエネミーの急所を攻撃することを特異としていた。
これほど浅い階層であっても、それなりに大型の、あるいは凶暴なエネミーは一定の確率で出現するわけで、そうした比較的危険なエネミーはだいたい黎などの攻撃力特化型の生徒たちが率先して倒すことになっている。
そうした、確実にエネミーを倒す実力を持った上級生がパーティ内に同行していないと、経験の浅い一年生たちが安心心して迷宮に入れない。
そういう、現実もあるのだが。
黎は、智香子たち六人の中でも一番のアタッカーといえた。
エネミーに対する攻撃力でいったら、他の五人はこの黎に大きく引き離されている。
一撃で与える傷の大きさもさることながら、確実にエネミーの隙を突いて急所に攻撃を入れ、たいていの場合はその場で即死をさせる。
あえてゲーム的な表現をするのなら、クリティカルを発声させやすいタイプのアタッカーといえた。
その代わり、一撃で仕留めることが困難な、ある程度タフで強い生命力を持つエネミーに対しては、弱い。
弱い、といういい方が酷なら、単独で対峙する能力に欠けている、ともいえるのだが。
ただ、そうした能力的な偏差はロスト組のみならず、探索者であれば誰にでも存在するわけで、そうした短所は他のパーティメンバーがフォローすればいい。
と、智香子は思っている。
その黎は、今もまた、スイギュウ型の群れに突入して次々とエネミーを屠っていた。
少し前まで、そのスイギュウ型も智香子たちは数人がかりでやっと仕留めるようなエネミーだったが、今では黎一人で群れの中に突入して、そのまま次々と連続して屠り続けるほどに腕を上げている。
そうしている間、黎は目まぐるしく動きっぱなしであり、ほぼ全身をエネミーの返り血で染めているような状態だったが、パーティ内の前衛としてみるとこれほど頼もしい光景はないともいえた。
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