第357話 ユニーク

 一年生の柳瀬さんも、黎と同じく攻撃一辺倒のアタッカーだった。

 ただ、防御を回避に頼る、という部分は同じでも、一撃必殺を目指す黎とはかなり性質が違うアタッカーに育ちつつある。

 というか、ロスト事件を経験したとはいえ、柳瀬さんは探索者になってから日が浅く、すでに一年以上も迷宮に出入りをしている黎と同じような動きをそのままできるわけもない。

 経験の浅い柳瀬さんは、黎ほど素早く動けるわけでも力が強いわけでもなかった。

 一撃で大型エネミーの頸に大きく切れ込みを入れることもできなかったし、そもそもその一撃を入れるところまで、エネミーに肉薄することさえ難しい。

 たいていの場合、柳瀬さんよりも、そうしたエネミーの方が俊敏だからだ。

 では、柳瀬さん単身ではエネミーに対抗できないかというと、実際にはそんなこともない。

「ほい」

 軽い口調でそういいながら、柳瀬さんは軽く体を捻ってスイギュウ型の突進を躱す。

 間一髪というか紙一重というか、見ている方が危なっかしく思うようなギリギリ具合だったが、柳瀬さん自身は案外平静な表情で動き続けていた。

 そして、柳瀬さんのすぐ横をすり抜けていったスイギュウ型の後肢、ちょうど膝の裏の部分が、いつの間にかざっくりとえぐられている。

 柳瀬さんを通り越してしばらく進んだスイギュウ型が、唐突に後肢から血を吹き出しながらどうっと横転した。

 物理的な装甲に頼らず、避けることによりエネミーの攻撃を回避する。

 そうした方法論については、柳瀬さんと黎は共通していた。

 しかし、その避け方は、厳密にいえばかなり性格が異なってもいる。

 黎の場合は、回避と攻撃は完全に別個の動作として独立していたが、柳瀬さんの場合は、エネミーの攻撃を回避する動作と攻撃する動作は不可分であり、ほとんど同時に行っていることが多い。

 この柳瀬さんはどうやらかなり前からなんらかの格闘技を習っていたらしいのだが、その影響か、素人目にはかなり不思議でトリッキーな動きをすることが多かった。

 一見してゆっくりと動いているように見えて、その実、巧妙にエネミーの攻撃を躱し、同時に、無駄なくエネミーを傷つけ、結果としては行動を大幅に制限している。

 黎のように一撃でエネミーを即死させるような派手さはなかったが、最小の動きで味方のリスクを最小限に留め、着実にエネミーを無力化するという点では、かなり効果的といえた。

 なんだか、個性的な子ばかりが集まって来ちゃったな。

 などと、智香子は思う。

 ロスト事件をくぐり抜けているため、累積効果だけを取り出しても、智香子たち六人はすでに上級生に匹敵するだけの実力を蓄えている。

 そうした、表面的な部分だけではなく、実際の戦闘スタイルについても、六人個々にかなりユニークな方法論を実践するようになっていた。

 六人個々の性格や気質、所持するドロップ・アイテムやスキル構成の違いがそのままこうしたユニークさの原因になっているわけだが、少なくとも智香子たち中等部二年生の段階で、ここまで明確な個性、プレイスタイルを確立することはほとんどない。

 というか、探索者として活動をしはじめて一年そこそこでは、そこまで明確な個性も育ちようがない、のが、普通だった。

 それは、同級生の探索部生徒たちの様子をざっと眺めてみても、断言ができる。

 なんだかなあ。

 と、智香子は心の中で嘆息した。

 自分たち六人は、例のロストの件がなかったとしても、校内で浮いた存在になっていたのではないか。

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