第358話 それぞれのスタイル

 そう思い智香子自身が、客観的見ても六人の中では一番人目を引く要素を備えている。

 つまり、探索者として活動する時の外見的には、ということだが。

 こうした人目を引く要素は、先輩から譲られたりドロップしたアイテムをそのまま装備したりすることから来ているわけで、そうした装備やアイテム類も必要、というか、装備していると相応のメリットが存在するので装備をしているわけであり。

 うん。

 と、智香子は思う。

 人目は、必要以上に気にしない方がいいかな。

 他人が自分をどう見ているのか。

 そんなことを気にかけはじめたら、それこそなにもできなくなる。

 そうした外見的な部分よりも、智香子としてはスキル構成やエネミーへの対処法など、六人の〈ロスト組〉の、探索者としてのプレイスタイルがかなり風変わりなものに育ちつつある点が、気になった。

 六人の中で比較的穏当、というか、

「他にも同じようなスタイルの人がいるだろうな」

 と思えるのが黎の両手剣スタイルとか佐治さんの盾メインスタイルであり、その二人の以外の四人ようなスタイルは、あまり聞いたことがない。

 香椎さんは、メインの武器をあまり固定せず、臨機応変に様々な武器を持ち替えて使用することが多かった。

 香椎さんはかなり器用なタイプであるらしく、間合いの異なる複数の武器を使い分けても、あまり混乱せずに対応できるらしい。

 もっとも使う機会が多いのは、強いていえばあの黒光りする下品な形状のブラックジャックになるわけだが、状況によっては槍や剣なども普通に使い分けている。

 どの武器を使用する時も、左手に盾を持つことが多く、攻防の両方を常に考慮するバランス型という姿勢は一貫していた。

 器用すぎる、という一点を除けば、この香椎さんが探索者として一番オーソドックスなスタイルである、といえるのかも知れない。

 黎の両手に剣を持つスタイルや、佐治さんのように盾をメインに使用するスタイルは、実は他の探索者でも採用している人がそれなりにいる、ようだった。

 攻撃や防御に比重を置いたスタイルは、メリットもデメリットもそれなりにあるわけだが、その両方を考慮してあえて偏重したスタイルを採用する。

 そんな探索者も、一定数いることは、智香子も知っている。

 ただ、そういう選択をする探索者にしても、経験の浅いうちから固定的にそうした偏重したスタイルを採用していたわけではなく、たいていの場合はある程度探索者としての経験を積み、その上で、常駐しているパーティメンバーのスキル構成などを考慮し、その上であえて偏ったスタイルを採用する。

 というパターンが、多いようだ。

 探索者になってから数ヶ月とか一年前後で、そこまでプレイスタイルを固定する例は、皆無とはいわないが、実際にはかなり少ない。

 智香子がこれまで見聞した範囲内では、そういうことになっているらしい。

 黎にせよ佐治さんにせよ、個人的な能力や適性を考慮して、本人が一番やりやすいと感じるスタイルを採用しているだけ。

 ということは、智香子も理解していたが。

 ただ、この二人の場合、それが填まりすぎたのか、経験に似つかわしくない成果を常に叩きだしている気がした。

 この二人は、少なくとも二年生の中では、突出して強すぎるのだ。

 残りの、二人の一年生も、かなり特殊なスタイルだといえた。

 回避しつつ、同時に攻撃する。

 そういう、他人にはおいそれとは真似できない戦法を得意とする柳瀬さんと、最初から〈投擲〉スキルによる攻撃をメインに固定してその姿勢を一貫している世良月。

 そのどちらのスタイルも、少なくとも智香子は、他に採用している探索者の噂を聞いたおぼえがない。

 柳瀬さんが得意とする戦法は、単純にリスクが大きすぎてやる意味がない。

 そう考えるのが普通の感覚だったし、世良月の〈投擲〉スキルに関していえば、遠距離攻撃用のスキルは意外と豊富であり、隙が多く連射に向かない〈投擲〉スキルは、その豊富な遠距離攻撃用スキルの中でもかなり人気がない方だった。

 補助的に使うのならばともかく、わざわざその〈投擲〉スキルをメインで使うべきメリットが、これも普通に考えれば、ほとんどない。

 この二人のスタイルは、客観的に見れば、

「本人の趣味によって、自発的に不利な方法をあえて採用している」

 形になる。

 他に似たようなスタイルを採用している人の噂を聞いたことがないのも、智香子には自然なことに思えた。

 理屈で考えれば不利なスタイルなのだが、あの二人は自然に使いこなしているしなあ。

 と、智香子は、そんな風に思っている。

 現状でうまくいっているスタイルを、理屈に合わないからといって強引に止めさせるほど、智香子も他の四人も押しつけがましい性格はしていなかった。

 そして、智香子本人はといえば、エネミーへの攻撃能力は六人の中では最低であり、その代わり、〈察知〉などの補助的なスキルでパーティを支援することに特化している。

 少なくとも、当人の自認としては、そういうことになっていた。

 ただ、その「攻撃力がない」という性質も、新たに入手した〈指輪〉とその他の装備品との複合的な効果によって、過去のものになりつつあった。

 そのことに、智香子自身はまだ気づいていない。


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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~ 肉球工房(=`ω´=) @noraneko

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