第111話 先輩たちの進路

 ということで、二学期から智香子たちは先輩方のパーティに組み込まれることになった。

 これまでは一年生主体のパーティに引率役の先輩が随行する形が多かったが、これからは、智香子たち一年生が先輩方に従う形になる。

 従う、といっても、パーティの進む方向を決めるのが先輩方になるという程度であり、智香子たちの心証としてはこれまでとあまり大差がなかった。

 ただ、一年生組よりもキャリアが長い先輩方はどうしたって智香子たちよりは動きが早い。

 エネミーと遭遇してからの初速というだけではなく、それからの動きすべてが早かった。

 一年生組はそうした先輩の動きについていくことができず、大半は先輩方が数秒でエネミーを全滅させてからようやくエネミーのそばまで移動し終えるという有様だった。

 むろん例外はあり、攻撃の射程が長いスキルを持っている者はたとえ一年生であろうともエネミーに一撃くらいは加えることができたが、それ以外の大勢の一年生がほぼなにもできずに駆け回るだけで迷宮を出ることになる。


「うひひ」

 エネミーを倒した直後、青島先輩と松風先輩は一年生たちに向かって笑顔を見せ、それからそんなことをいった。

「これ、毎年恒例だから。

 別にエネミーを直接倒さなくても経験値は入るし、いずれは攻撃に参加ができるようになるから」

「まあ、焦らずにじっくりと次の機会を待つんだな」

 明らかに揶揄をするような態度だった。

 実に、大人げない。

 一年生組の中でも〈ライトニング・ショット〉のスキルを持つ智香子などは比較的エネミーへの攻撃に参加をできている方なのだが、その他の一年生たちは日々フラストレーションを溜めていた。

 弓道部や吹奏楽部との兼部組も智香子と同じく長距離攻撃用のスキルを持っているのだが、こちらは兼部であるという都合上、入れ替わって顔ぶれを変えながらパーティに出入りをしている。

 毎回エネミーを攻撃できるのは、一年生の中ではほぼ智香子のみという状況がしばらく続くことになった。


「腹たつなー!」

 迷宮を出て、空いている教室内に入ってから、香椎さんが感情を露わにした。

「なにあれ!

 迷宮に入っている時間がまるで違うんだから、実力に格差があるのは当然じゃん!」

 香椎さん、意外に怒りっぽいんだな、と、智香子はそんなところに感心をする。

「露骨な挑発だとは思ったけど」

 佐治さんは、どうやら苦笑いをしているようだった。

「要するにあれ、一刻も早く狩りに参加できるようになれと、そう奮発しているつもりなんでしょ。

 それに先輩方も三年生なわけだし、もうすぐ部活も引退するはずだよ」

「……十八歳以上の引率役ってのが、ネックよねえ」

 香椎さんはそういって、下唇を軽く噛んだ。

「それがなければ、三年の人たちは部活なんかにかまけていられる時期じゃないはずなのに」

「受験先が完全に安全圏の先輩は、かなり長く部活しているそうだけどね」

 黎が、そう指摘をする。

「案外、このパターンが多いそうだよ。

 去年までの例でいくと」

「わりと偏差値高いからなあ、うち」

 香椎さんが悔しそうな口調でいった。

「高望みをしなければ、そういうこともあるのか」

「青島先輩とか松風先輩の志望校って、どこだったけ?」

 智香子が、ふとそんな疑問を口にする。

「そういや、聞いたことないな」

 佐治さんが首を捻った。

「その辺の詳しいはなし」

「あの二人、実は成績よかったりするの?」

 香椎さんは、そんな疑問を口にする。

「追試受けたとか聞いたことがないから、悪いって事はないと思う」

 黎が、そう答える。

「それと、あの二人の志望校、城南だって」

「城南」

「城南」

「城南」

 智香子と佐治さんと香椎さんが、それぞれの感慨を込めて口にした。

「ってことは、あの二人、そこそこ頭がいいわけか」

 香椎さんが、そんな風に評する。

「城南を受けられるような成績だとは思わなかった」

「ひどいいいようだね」

 黎は、淡々とした口調で応じる。

「完全に安全圏、というわけでもないみたいけど。

 頑張れば可能性はある、程度だと聞いている。

 別に滑り止めを併願するんだろうけど」

「にしても、凄い」

 佐治さんは素直に感心をしていた。

「でも、城南かあ。

 わたしには、到底無理そうだな。

 それもあの、御前って人の影響かな?」

「それも多少はあるみたいだけど」

 黎は、そう続けた。

「それだけだったら最近になって志望校を変えたりしないと思う。

 多分、あの大きな人の影響だと思う。

 あの二人以外にも、城南に志望を変えた三年生は多いそうだし」

「大きい人?」

 香椎さんが、首を傾げる。

「あの、丸くて大きな、改造したアイテムの兜を持ってた男の人?」

「そう」

 黎はあっさりと頷いた。

「上級生のパーティは何度か、あの人の組んで迷宮に入っているんだけど。

 なんていうか、あの人がいると安定感が全然違うんだって」

「え!」

 今度は智香子が、驚きの声をあげる。

「ただそれだけの理由で、志望校まで変えちゃうの!」



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