第112話 先輩方の方法
先輩方の方法というのは、なんというか豪快だった。
とにかく、いちいち効果が大きく射程距離が長い。
それでいて、近接戦闘もきっちりこなす。
突如足を止めた宇佐美先輩がその場で弓を引き絞り、
「合いました」
と告げつつ〈梓弓〉のスキルを発動することで戦闘が開始する。
この宇佐美先輩は〈察知〉のスキルも生やしていて、しかもそのスキルの練度がかなり高い。
大抵は一番最初にエネミーの存在に気づき、攻撃を開始する。
その時点で攻撃対象となるエネミーとは、下手をすると一キロ前後の距離がある。
こちらのパーティに気づいていたとしても、エネミーの側は即座にこちらを呼応激する手段を持たない。
いや、この先、もっと深い階層にまで達して二本足のエネミーと交戦するようになると、相手もスキルや武器などを使用して来るそうだが、今智香子たちのパーティが潜っているのは、スイギュウ型が主に発生する浅い階層だった。
宇佐美先輩が立て続けに放った〈梓弓〉のスキルがスイギュウ型の額を炸裂。
そのまま頭蓋骨を割られて絶命し、どうっと倒れ込むスイギュウ型。
宇佐美先輩が弓を引く度に、そんな光景が出現する。
少し遅れて、宇佐美先輩以外の弓道部との兼部組が〈梓弓〉のスキルを使い始める。
が、こちらは威力、命中精度ともに宇佐美先輩の域には及ばず、頭部以外の部分に命中してかえってエネミーを興奮させるか、それとも頭部に命中してもエネミーをその場で絶命させるほどのダメージを与えずに終わるかのどちらかであることが多いようだ。
なんといっても、スイギュウ型は数十頭単位の群れで発生する性質があり、宇佐美先輩を筆頭とする弓道部との兼部組が多少数を減らしたとしても、大勢には影響がなかった。
とにかく、宇佐美先輩の〈梓弓〉による攻撃を合図として、他のパーティたちもエネミーへの攻撃を開始する。
具体的には雄叫びを空けてまだ距離が開いているエネミーを求めて突撃をしている。
青島先輩が走りながら、〈投擲〉スキルによりドロップ・アイテムである〈手斧〉を何本か、両手で立て続けに投げつける。
その〈手斧〉は大部分、エネミーの頭部に命中するのだが、何本かはエネミーの前肢に命中した。
足を折られたエネミーはその場にうずくまって、そのまま突進を続ける仲間のエネミーに置いていかれる。
そして遠距離攻撃組の〈梓弓〉による攻撃を背負うようにしてエネミーに迫っていた先輩方が、ついにエネミーと直接接触をする。
つまりは、先輩方の攻撃が入る距離にまでエネミーが近づいてきたということで、先輩方は次々と多種多様なスキルによる攻撃を駆使してエネミーたちを片っ端から倒していく。
先輩方の強さは智香子たち一年生組とは比較にならないレベルであり、ほとんどが秒殺だった。
鋤柄卯を発動した次の瞬間にはスイギュウ型のエネミーが倒れている感じてあり、先輩方はあっという間に、接触後数分も経たずにエネミーたちを全滅させている。
その先輩方に遅れて動き出し、また移動速度も劣っている一年生組は、エネミーが全滅をしたくらいのタイミングでようやくエネミーに接触し、これを数人がかりで取り囲んで一体ずつ始末していく。
この時に一年生組が相手にしているのは、つまりは青島先輩が足を折って移動不能の状態にしていたエネミーということになり、加えてスイギュウ型のエネミーはかなり体が大きく、現在の一年生組の攻撃力では一撃で仕留めるということがほとんどできなかった。
だから数名でエネミーを取り囲んで、動けないエネミーを順次手にかけていくという、戦いというよりは作業に近い工程が発生してしまう。
そうでもしなければ、一年生組はほぼ全員、なにもせずに先輩方のうしろについていくだけで終わってしまうのだった。
そんな一年生組のために、青島先輩はわざわざ手間をかけてエネミーに対応する機会を設けてくれている形となる。
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