第113話 外征

「やっぱり、なにもかもが足りないんだよね」

 黎がそう指摘をした。

「先輩たちと比べると年単位の格差があるわけでさ。

 累積効果もだけど、スキルの練度もまるで足りない」

「最小でも一年、最大で六年差だもんなあ」

 佐治さんもそういって、軽く顔を顰める。

「すぐに埋まる差ではない、ってことは確かだね。

 特に迷宮では、累積効果があるから」

「長く迷宮内に留まってエネミーを狩れば、それだけで実力差になる」

 香椎さんも、そういって頷いた。

「この条件がある以上、先輩たちといっしょに迷宮に入っていたら、永遠に追いつけない」

「いやあの」

 智香子が、冷静に指摘をする。

「別に、無理をして追いつく必要はないんじゃないかな?」

「は?」

「あ?」

「なに?」

 そして、三人から同時に視線で射すくめられる。

「そこはもっと悔しがらないと駄目でしょ」

「こままだとコケにされ続けるばかりだし」

「努力する姿勢を否定してはいけません」

 三者三様に、そう説得された。

「ということで、解決案なんだけど」

「いや、ひとつしかないでしょう」

「部活以外に、迷宮に入る時間を作る」

 香椎さんが、そうまとめた。

「それ以外に先輩たちとの格差を埋まる手段はありません。

 これはもう、探索者や迷宮の性質から考えれば自明のことです」

 なにもそこまで熱心にならなくても。

 智香子としてはそう思わないでもなかったが、それを口にするとまた三人に睨まれそうだからあえて沈黙していた。

「部活以外、私的なルートで十八歳以上の探索者が必要だな」

 佐治さんが、そういった。

「そもそも探索者の知り合いが都合よくいればいいんだが」

「あ」

 智香子は小さく叫んで、黎の方を見る。

「そういえば」

 香椎さんが黎の顔を見て、頷きながらそういった。

「あの御前の先輩は、黎の親類とかいってましたね」

「わかったよ」

 黎は、ため息をつきながら自分のスマホを取り出した。

「一応、打診はしてみる。

 でも、あちらから断られたらそれまでだからね」

 黎としては、例の「葵御前」先輩に連絡を取るのは、不本意なようだった。


「この子たちが、例の?」

 着古した、初心者用の保護服を身につけた女の人が、智香子たちをざっと眺めてからそういった。

「そう」

 葵御前が、その女の人に頷きながらそういう。

「わたしの従妹と、その同級生たち」

 次の週末、智香子たち一年生四人組は〈白金台迷宮〉に来ていた。

「まだ中一だっていってたよね?

 ってことは、法定年齢ぎりぎりかあ」

 初心者用保護服の女性はそういって、一人で頷いている。

「まだ焦るような年齢でもないのになあ」

「背伸びをしたい年頃なんでしょう」

 葵御前はそういって肩を竦めた。

「あまり邪魔をしないようにいっておいたから、同行させてもいいでしょ?」

「別にいいんじゃない」

 初心者用保護服の女性は頷く。

「多少人数が増えたくらいで、邪険に扱うような人はいないと思うけど」

「それはわかっていますが」

 葵御前は苦笑いを浮かべている。

「ただ、この子たちがうちのやり方についていけるかどうか」

「今日は誰が来るんだっけ?」

「秋田くん。

 それに、一陣さんと双葉さんですね」

「じゃあ、全然問題ないね」

 初心者用保護服の女性は頷く。

「人見知りするような人たちでもないし」

「よう」

 茶髪の若い男性が、葵御前と初心者用保護服の女性に話しかける。

「この子たちが、例の?」

「松濤女子の、後輩になります」

「そうか」

 茶髪の男性は頷いた。

「普段はレベリングをされることのが多いからなあ。

 たまには、逆になるのもいいか」

「やっほー」

「ああ!

 なんか可愛い子たちがいっぱいいる」

 さらに若い女性の二人組が、声をかけてくる。

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