第110話 必要な資質

「見込みがありそうっていうのは、いい変えば面白い育ち方をしているなってこどだから」

 松風先輩がそういい添えた。

「退屈なやつとよりは、ユニークなやつと組みたい。

 そういうもんだろう?」

「ユニークなやつ、ですか?」

 智香子は問い返す。

「自分では、あまりユニークだとは思っていないんですが」

「みんなそういうんだよね」

 松風先輩は智香子の言葉に頷いた。

「面白い育ち方をしている探索者は。

 自覚がないっていうのかな。

 結局、スキル構成なんてのは環境によるところが多いわけで、本人にしてみればそうなるしかないと思い込む傾向があるわけだけど」

「そうそう」

 今度は、松風先輩の言葉に青島先輩が頷く。

「そこへいくとわたしらなんて、実に平々凡々とした育ち方しかしてないし」

「探索者っていうのはユニークかどうかじゃなくて、効率よくエネミーを倒せればそれでいいんじゃないっすかね」

 眠そうな口調で、佐治さんがいう。

「結果オーライっつうか」

「それも一理あるね」

 松風先輩はあっさりと認めた。

「ただ、攻撃力オンリーの脳筋パーティになると、これはこれでちょっと拙い面もある。

 突発的なアクシデントに弱くなるっつうか」

「悲しいことに、うちの探索者はこの脳筋的な攻撃力頼りの育ち方をすることが多い」

 青島先輩が説明を補足した。

「迷宮の中で、そうなりやすい戦い方をしているからではあるんだけど。

 ただその欠点を自覚して、是正をしていく努力はするべきだと思うんだよな。

 非常時に備えて」

「そうそう」

 松風先輩は、その言葉に大きく頷いた。

「あとユニークってのは、あれだ。

 多様性という意味で大きな意味があるし」

「多様性、ですか?」

 今度は、香椎さんが首を傾げる。

「パーティ内での多様性、な」

 松風先輩はそう続ける。

「単純に、スキルの種類でもなんでも、手数が多い方が多様な状況に対応可能になるっしょ」

「多様な状況、って」

 佐治さんが、不満そうな声を出した。

「エネミー発見、即殺せ!

 みたいな状況しか、今まで経験していないんですが」

「うん。

 普通は、それで済むんだけどね」

 青島先輩が妙に達観をした表情で頷いた。

「でも、ほら。

 迷宮ってのは基本的に、なにが怒るのかわからない場所だから。

 ついこの間だって、〈特殊階層〉にいったばかりでしょ?」

「単調だ退屈だと思って高をくくっていると、いきなりあんなのに出くわすような場所なんだよ」

 松風先輩が、そういう。

「他にも、スキルがロックされて使えなくなるパターンとかあるし。

 普段うまくいっているからといって、それで甘く見ていると痛い目に遭いかねない。

 迷宮っていうのは、そういう場所だから」

「ま、用心に越したことはないって、程度のことなんだけどね」

 青島先輩がいい添えた。

「香椎ちゃんは盾と剣を使いこなすバランス型。

 佐治ちゃんは〈盾術〉スキルがいい具合に育っていて、それにプラスして〈格闘〉なんて少し珍しいスキルまで生えている。

 レイちゃんは完全攻撃型で、防御とか補助系のスキルがまるでなしという一点突破型。

 チカちゃんはその逆で、攻撃以外でパーティに必要なスキルはほぼ持っているという器用貧乏型。

 この四人って、結構面白い組み合わせだと思わないか?」

「この四人でしばらくまとめてひとつのパーティにしておいた方がいい、って、上級生の中でも意見がまとまってな」

 松風先輩がいった。

「でまあ、それならうちらのパーティで預かろうか、と。

 そういうことになったんだ」

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