第109話 暫定パーティ

 そんな感じで夏休みが過ぎ、二学期に突入した。

 授業の方は相変わらずだったが、課外活動である部活の方には大きな変化があった。

 夏休み明けから一年生たちも、上級生たちのパーティに混ざって本格的に活動をすることが可能になったのだ。

 以前にも何度かお試しのような感じで上級生のパーティに混ざったことは何度かあったのだが、これからはそれが常態になるらしい。

 このじきまで残っていれば、もはや脱落することはないだろうという経験から来る判断と、それにこの時点で一年生も上級生たちの足手まといにならない程度には育ってきているからだ。

 と、智香子たちとしては思いたい。

 その上級生たちのパーティというは全学年混合体制で、半分くらいのメンバーが常時入れ替わるという。

 というのは、弓道部や陸上部、吹奏楽部、演劇部などの兼部組は、本来の部活を優先するので、その分が流動的になるのだそうだ。

 いいかえると、兼部をしていない探索部員たちは、毎回、ほぼ同じ面子でパーティを組むことになる。

 そうしたパーティが松濤女子の探索部全体で数十という単位で存在するのだが、メンバーはある程度固定しておいた方が連携なども円滑に行われ、なにかとやりやすいといわれている。


「というわけで」

 放課後、智香子たちを呼び出した青島先輩はそう宣言した。

「レイちゃん、チカちゃん、佐治ちゃん、香椎ちゃんの四人は、うちらのパーティな。

 あくまで、異論がなければってことだけど」

 青島先輩の横に、松風先輩と宇佐美先輩も立っている。

「異論は別にありませんけど」

 智香子はおずおずと片手をあげて質問した。

「なんでこの四人なんですか?」

「まず、この四人は兼部していない」

「はい」

 智香子は、この言葉に頷く。

「意外と、兼部していない子って少ないですよね。

 それでも探索部にしか入っていない子って、まだまだ大勢いたはずなんですけど」

「それと、この四人だけでパーティを組んでも、そこそこうまくやっていける」

 青島先輩は、そう続けた。

「スキル構成や性格その他、様々な要素を考えてみると、そういう結論になるんだよね」

「はぁ」

 智香子は、気が抜けた声を出した。

「やれるかやれないかっていったら、そりゃ、やれはするんでしょうけど。

 でも、この四人だけだと、そんなに深い階層にまでは行けませんよ」

 パーティを組んで迷宮に入るだけならば、極端なことをいうのならば、それこそ誰にでもできるのだ。

 安全確実に帰還することを心がければ、相応の準備と知識と経験と、それに心構えが必要になるというだけで。

「軽く流しているけど、大事なことだぞ」

 青島先輩は、そう続けた。

「自分たちだけでも、あるいは自分だけでも無事に帰れる素養を持つってことは。

 実際、うちの歴史でも何度かパーティが全滅に近い状態になって、生き残った少人数だけが帰還して来たって事例はあるわけだし」

 などと、怖いことをいい出す。

「いやそれは、聞いたことがありますけど」

 智香子は続けた。

「でもそれって、そうなる確率とかでいったらかなり極小ですよね?

 その時に行動不能になった人たちも、〈フクロ〉に収納されて無事だったって聞いていますけど」

 負傷した探索者に止血した上全身麻酔をかけて〈フクロ〉に収納する、という行為は、非常時には珍しくはない対処法だった。

 一見して乱暴に見えて、いや、かなり乱暴な措置であることは間違いはないのだが、行動に難がある探索者を〈フクロ〉の内部に収納することによって、残りの探索者はそれだめ身軽に動けるようになる。

 また、〈フクロ〉の中ではほとんど時間が制止する状態になるらしく、中に入れられた探索者の方もそれ以上に傷が深くなることもなく、自分で移動をして帰還するよりはずっと安全で治療を受けるのに適切な状態のまま迷宮の外に出ることができる。

「そうした過去の事例も、処置が適切であったから、大事にならないで済んだんだ」

 青島先輩は、そう指摘をした。

「自分以外のメンバーが全滅しても諦めずに最善を尽くし、全員が無事に帰れるように努力をする。

 わたしらにしてみれば、後輩をそういう風に行動ができるよう、育てる義務があるわけで。

 今の時点で見込みがありそうなのはこの四人だと、わたしらがそう判断したってこと」

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