第186話 価値あるアイテムの処分法
気づいてしまった物は仕方がない。
橋本先輩はそういって、まずは誰か一人に勝呂先生にこの件について知らせて貰い、それ以外の委員は予定通り迷宮から帰って来た生徒たちのチェック当番を行うように指示をする。
その上で、智香子たち四人に対しては、
「発見した当事者だから」
という理由で、この円盤の奇妙な性質について調査する行為に同行をさせた。
「どこでも、たとえば迷宮の影響圏外でも同じような現象か起こるのかどうか、それくらいは確認しておかなけりゃな」
と、橋本先輩はいう。
「物が物だから、すぐにわたしらの手を離れてどこかの研究機関の預かりになるとは思うんだけど」
そういいながらも橋本先輩は指先で例の円盤をくるくると回しながら廊下を歩いて行く。
迷宮の影響圏外でも同じ現象が観測できるのならば、この奇妙な現象は迷宮に付随をするのもではなく、この円盤に備わった性質ということになる。
迷宮のロビーから渡り廊下を抜けて校舎内に入り、さらに橋本先輩は進む。
智香子たち四人もその後についていく。
「ここあたりから、迷宮の影響圏ではなくなるはずなんだけど」
ある地点で、橋本先輩がそういった。
智香子は試しに自分の手に目をこらしてみる。
「〈鑑定〉のスキルが使えませんね」
その上で、橋本先輩にそういった。
「もう完全に、影響圏から出ています」
「じゃあここで、しばらくこれの様子を見てみようか」
橋本先輩はそこ場で足を止めてそういった。
「まあ、せいぜい五分くらいだけど」
それだけの時間、この円盤が減速せずに回り続ければ、それは異常な現象だと認めてもいい。
と、いうわけだった。
「こういう場合、どこかに報告とか届けとか出すもんなんですか?」
円盤の回転がどこまで続くのか待つ間、智香子は橋本先輩に訊ねてみる。
「義務とかではないけど」
橋本先輩は、そう答えた。
「普通は、まず公社に連絡して、そこからどっかの研究機関に報告がいく。
自前で研究できる企業とか大学とコネがあるのならば、自分でそこに持ち込んで解析とか研究をしても文句はいわれないはずだけど」
「なるほど」
智香子はその返答に頷いた。
「完全に、わたしたちの手には余りますものね」
慣性だか運動量の保存だか知らないが、この現象は明らかに未知の、人類が知らない原理によって引き起こされている。
なぜそんな現象が起こるのか、智香子たちに研究とか解析をしろといわれても、普通に困る。
「知っての通り、迷宮からは通常の物理法則から逸脱したように見えるアイテムや物質がいくつかドロップしているんだけどさ」
橋本先輩は、そう続けた。
「そういうの研究する過程で見つかった法則や知見のおかげで、新しい製品ができて経済が回っているような側面もあるし。
ともかく、死蔵せずにどこかに提出して研究をして貰うってのが鉄則になるね」
智香子たちが普段使っているアイテムの中にも、そうした物理法則から逸脱した働きをする物が多く含まれていた。
ただ、そうしたアイテムはそれなりの頻度でドロップしているので、研究用の資材として提供された物とは別に、迷宮内で実用していても支障がないわけだが。
今回のこの円盤の場合は。
「この円盤、よくドロップするものなんですか?」
「あの、〈武器庫〉と呼んでいる領域ではね」
橋本先輩は即答する。
「今日も十枚以上はドロップしていたでしょ?
その意味で、決して珍しい物でもなんだけど。
しかし、参ったなあ。
この円盤、こんな効果があるなんて誰も気づかなかったから、これまでも素材扱いでスクラップ業者さんにそのまま引き渡していたんだよ。
先生への報告が終わったら、鉛のコンテナに入ってこの円盤だけ抜き出してこなけりゃ」
今回の件は、それまで無価値な、地金分の価値しか持たないと思われた円盤が、そうではなく、新たな価値を持っていると判明した形である。
当然、プールしてある円盤は確保して、別に保存しておく必要がでてくる。
橋本先輩にしてみれば、この件で委員会の仕事が想定外に増えてしまった、ということになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます