第65話 反省会

「今日はここまでにしておこうか」

 迷宮に入ってから一時間ほど経過した頃、青島先輩はそう宣言した。

「まだ初日だし、気づかれもしているだろう。

 一度引き上げてから、今度は反省会やるよ」

 一年生たちは、青島先輩の言葉に異を唱えない。

 相当に疲れていたからだ。

 一時間。

 普段、先輩たちが迷宮に入る時間はもう少し長く、だいたい九十分から二時間、その前後できりのいいところで娑婆に戻ることが多い。

 しかしここ第一階層は先輩たちが出入りをしている階層と比較するとエネミーとのエンカウント率が多く、正直にいえば気が休まる暇がなかった。

 時間的には短くとも体感としてはあまりそう感じず、迷宮から出て時間を確認しても、

「まだこれだけしか時間が経っていないのか」

 と、意外に思う者の方が多かった。

 青島先輩がいっていた通り、緊張感から来る気疲れも、当然あるのだろう。

 とにかく、その一時間、ほぼ休むことなく体を動かしていた一年生は、ほとんどの者がゲート前のロビーでそのままへたり込む。

「二時間の休憩を挟んで、それが終わったら視聴覚教室に集合してくれ」

 そんな一年生たちに、青島先輩は告げた。

「さっきもいったけど、そこで反省会をやる」


 二時間も時間の余裕があれば、休憩と食事だけではなく、シャワーを浴びて着替えることもできた。

 シャワー室は校舎の内部にかなり広めの物が何カ所かあり、そのうちの迷宮に近いシャワー室はいつもは先輩方が先に入るので使えないのだが、この日は活動する時間帯が違っていたので一年生たちも遠慮することなく使用することができた。

 別にこのシャワールームだけが豪華な設備が整っている、などいうわけではない。

 基本的に学校内の設備であるのだから、どこの物を使っても内実としてはほとんど差がなかった。

 ただ単に、「迷宮からあまり歩かずにシャワーに入れる」というだけが、そこのシャワールームが珍重される理由になっている。

 迷宮内では汗まみれになって出てくることが多く、そこから長く歩くのはだるいし歓迎されないだけだった。

 引率役として一年生に同行していた青島先輩の姿はシャワールームで見掛けなかった。

 たぶん、歩いているだけで、ほとんど汗をかかなかったせいだろうな。

 と、智香子は予想する。

 その反対に、一年生たちはほとんど全員がこのシャワールームに駆け込み、そのまま服を脱いで汗を流しはじめている。

 こうしてみると。

 勢いよく裸体を晒しはじめた一年生たちの姿を見て、智香子は思った。

 多少、成長の差や体格差はあるものの、小さい子が多いな。

 と。

 この春まで小学校に通っていた子ばかりであるから、それで当然といえば当然なのだが。

 ちなにみに、智香子自身も、その幼児体型組に属しているし、背も低い。

 同級生と比較しても、育っていない方だった。

「反省会って、なにやるんだおろうね?」

 智香子がそんなことを考えつつもぞもぞと服を脱いでいると、先に服を脱いだ黎がそう話しかけてきた。

「さあ?」

 智香子も、首を捻る。

「これまで、迷宮に入った後に、そんなことをやってないよね?」

 先輩方のおまけとして迷宮に入った後に、そんなことをやった記憶はない。

 つまり、今回が特別ということで、実際になにをするのかまるで予想がつかなかった。

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