第172話 智香子の思案

 結局、自分はなにをしたいのだろうか。

 帰宅した智香子は、湯船に浸かりながら、しばらくそのことについて考えてみた。

 他の子たちがいっていたように、現状でも委員会はしっかりと仕事をこなしている。

 そうでなければ、そもそも松濤女子の探索部はうまく機能していない。

 探索部の子たちが特別困ることなく迷宮に入っていけているということは、委員会がうまく機能している証拠だった。

 しかも委員会は、日常業務の他に外部の税務署とか企業とかとの交渉も生徒だけでやっていて、何十年単位で実績を積んでいる。

 おそらく、それだけ長期に渡って組織的に迷宮を探索し続けている団体は、他にはないのではないか。

 営利企業ではない、というのが、長持ちの秘訣なのかも知れないな。

 と、智香子は思う。

 目先の利益ばかりに気を取られていると、得てして長期的な視野を欠きがちでもある。

 その点、松濤女子の探索部は、躍起になって利益をあげる必要がなく、成績にこだわることもなく、のびのびと生徒たちが迷宮に入ることができる環境を構築することだけに専念していた。

 おまけに、自然と集まってきたドロップ・アイテムはそのまま潤沢な資金として活用ができる。

 よくできた……というよりは、無理がないシステムといえた。

 おそらく、組織的な無駄や冗長性は、かなり残っている。

 でも、委員会のあり方としては、それでいいのだ。

 なぜならば、委員会を動かしているのはしょせん素人の、年端もいかない女子中高校生に過ぎず、あくまでその課外活動として運用されているのだから。

 無駄や冗長性を省き、いいかえればプロフェッショナルに徹することよりも、生徒たちの手で学校関係の探索者をフォローする仕組みを整え、運用し続けているということ自体に意義がある。

 でも。

 と、智香子は考える。

 その委員会への参加する門戸は、現状では、かなり限定されてもいた。

 そして智香子は、その閉鎖性こそがネックになると考えている。

「卒業生の関係者が自主的に入っていくか、それとも智香子自身のように現役の委員からスカウトされない限り入れない」

 というのは、どう考えても健全ではない。

 実際にはそれ以外に、

「委員会の活動に興味を抱いて、自主的に委員会を訪ねる」

 という人もいるのかも知れないが、いずれにせよ公式に誰にでも門戸を開いていないことは確かだった。

 閉鎖的、だよね。

 と、智香子は思う。

 そして、そうした閉鎖的な体質は、ともすると智香子のように委員会のあり方に疑問を抱くはずだった人なども、事前にシャットアウトしていた可能性もあり。

 うん。

 と、智香子は、そう結論する。

 よくよく考えてみても、今の委員会は健全な状態ではない。

 でも、それをどうやって、どういう風に、変えていくべきなのか。

 具体的な方向性については、この時点で智香子自身にもまるで掴めていなかった。


 お風呂からあがり、髪を丁寧に乾かしながら、智香子は考え続ける。

 当面、委員会の仕事をおぼえることを優先するしかないね。

 と、智香子は思う。

 改良案を出するにしても、現状についてしっかりと理解していないとどうしようもない。

 現状を把握していないと、現実の作業から外れた、見当外れな提案しかできない。

 と、そう思ったのだ。

 まずは、目の前の委員会の仕事をしっかりとやること。

 それが、第一段階。


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