第171話 四人会議、再び

「その生え抜き組? っていういい方でいうと」

 黎がいった。

「わたしも、その中に入るんだけど」

 理事長の孫だがひ孫だかになる黎の家系は、それこそ三代くらい前からずっと女の子は松濤女子に通うことになっている。

「いや、そういうことじゃないくてね」

 智香子はそれに答える。

「代々この学校に通っているとか、そういうのはむしろ表面的なことで。

 重要なのは、今までの方法を自明としてまったく疑わない、改良をしようとしないことで」

「現状でもそれなりに合理的で、安定しているからねえ」

 佐治さんがいった。

「委員会のやり方。

 そんなに無駄が多かったり不合理だったりする方法は、結果として長く続かないんじゃないかな」

「現状でも、それなりに合理的」

 香椎さんも、そういって頷く。

「これまで委員会を見て来た限りでは、そう思えるけど」

「合理的だけど」

 智香子がいった。

「でも、機会の平等は保証されていないでしょ?

 委員会だけが備品や予算の管理をすることを許されている形で」

「現実問題として、見境なく誰も彼もにそういう仕事を任せるわけにもいかないでしょう」

 佐治さんがいった。

「それこそ、責任問題になるわけでさあ。

 委員会で扱うのは、かなり高額な現金とかアイテムになるわけで」

「そう、管理責任の問題もある」

 香椎さんは佐治さんの言葉に賛同をする。

「無制限に参加させたら、それこそなにかあった時の始末が大変でしょう」

「犯人捜しとか、処罰とか」

 今度は黎がいった。

「委員会の倉庫、場合によってはん千万からするアイテムだってゴロゴロしているような場所だし。

 あんまり人の出入りが激しくなるのも、かえって都合がよくないんじゃないかな」

「セキュリティの問題かあ」

 智香子はそういって考え込んでしまった。

「そういう方面では、考えていなかったなあ」

 智香子たち四人がおおよそ中学生らしからぬ会話に興じているのは、例によって〈松濤迷宮〉が入っているビルにあるチェーンのカフェだった。


「チカちゃんが抱いた不満というのもわからないわけじゃないけど」

 黎が、そう続ける。

「でも、だからといって全校生徒、いや、探索部全員に委員会の仕事を分配してやらせようとするのは、デメリットのが多いんじゃないかな?」

 少人数で動く方が、相互の意思疎通が円滑になるということもある。

 参加する人数が増えれば増えるほど、連絡の遅延や齟齬なども多くなるはずだった。

 その意味で、黎からみれば現在の委員会の形は適切な人数で執り行われているように見える。

 パーティの編成やそれに関連する連絡など、機械的に代行できる部分はとことん機械化し、その上でそれ以外の、生身の人間が管理するしかない部分のみをしっかりとフォローしていた。

 黎がこれまでに見た範囲内では、そうとしか見えなかったのだ。

 おそらくこの辺の、仕事の種類の見極めは長い時間をかけて委員会が判別し、判断をしてきたはずで。

 昨日今日、委員会の仕事を知ったばかりの智香子たち一年生の見識では、それが本当に正しい姿なのかどうか、すぐに判断をすることは難しいのではないか?

 などと、黎は思う。

 委員会の人たちも、不合理なやり方を何年も放置していたとは思えないのだ。

「普通に考えて、わたしらが思いつく程度のことは誰かがすでに考えていると思うんだけどなあ」

 佐治さんが、そういった。

「でも」

 智香子は、何気ない口調でそう応じる。

「外部の人と連携することは、現にわたしが考えるまで誰も思いついていなかったわけで」

 実際には、智香子と同じようなアイデアをおもいついた人は過去にいたのかも知れない。

 いや、きっといたはずだ。

 でも、その人は、智香子のように扶桑さんの会社と繋がることはできなかったか、それともその思いつきを実現しようと行動に踏み切るところまでいかなかった。

 結果、智香子が先行者になったのだ。

 そうした実例がある以上、智香子にもまだできることは、きっとある。

 そのはずだと、智香子は思う。

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