第170話 生え抜き組

 智香子たちが委員会に所属をしたといってもその生活にはさほど変わりはなく、強いていば部活で迷宮に入らない日も放課後学校に残ってなにがしかの仕事をする必要が出て来たくらいだった。

 今のところ、アイテムの回収やそうしたアイテムの在庫確認などの仕事を手伝っている程度だったが、もう少し慣れてきたら経理関係の仕事も教えてくれることになっている。

 つまり、当面は迷宮に入っていく他のパーティの出入りを待って、ドロップしたアイテムを回収しつつの名称や個数を確認するような、そんな地味な作業をしているだけだった。

 当然、待機時間がそれなりに発生するわけで、そんな時に委員会の先輩方が手すきだったら他の仕事について教えて貰う。

 もしも先輩方に智香子たちの相手をしている余裕がない場合は、智香子たちは迷宮が入っているビルの中にある安手の飲食店で時間を潰した。

 よくよく考えてみれば委員会の仕事というのはあくまで裏方、探索部の生徒たちが活動をしやすいようにサポートをすることであり、つまりは主役ではない。

 自分で迷宮に入る時はともかく、それ以外の委員会として活動をしている時には、そうした主役が動きやすいように環境を整えるのが仕事になる。

 関係している業者との交渉などの仕事もあるのだが、そうした判断能力が要求される仕事は周辺の事情を把握している高等部の先輩方が担当していて、智香子たちのような新入りは事務仕事とか在庫整理とか、そんな地味な仕事しか残されていない。

 智香子たち以外にの委員会に参加している一年生は大勢いて、しかもそのほとんどが入学直後から委員会に所属をして活動をはじめていた。

 以前にも聞いたがこの委員会では松濤女子の卒業生の子や孫がそのまま参加しているパターンが多く、そうした入学直後から委員会で活動している子たちもほとんどそういう子たちだった。

 実際、現金や備品の管理や外部の大人たちと対等な立場でやり取りをする経験を在学中にできるのは、大きなアドバンテージにはなるんだろうな、と、智香子は思う。

 そういう生え抜き組の家庭は、さりげなく確認してみると、だいたい両親ともに社会的に高い地位にあり、家庭の年収もかなり高めなようだった。

 私学である以上、生徒間の家庭で経済的な格差はあるのは智香子もそれまでに漠然と感じていたが、この委員会では、

「優秀な両親の下に生まれた子どもが、両親が試していいと思った方法をそのまま引き継いでいる」

 という事実が明瞭になっており、そのことを改めて確認した智香子はかなり微妙な気分になった。

 そういう境遇の子たちが悪いとは思わないが、社会的に成功を収めている人たちが世代をまたいで固定化している場面を直接的に確認したことになる。

 また、そうした生え抜き組の子たちは、総じて性格もよくて頭がよく回り、仕事もできた。

 多分、これまで挫折らしい挫折を経験せず、周囲や両親が用意した正解にあたる選択肢をなんの疑問も抱かずに選んできた子たち、なんだろうな。

 と、智香子は思う。

 そうした生え抜き組の子たちは、客観的に見て、なにをやらせても智香子自身よりも優秀だったが、それはあくまで与えられた仕事をこなすことだけに限られており、自分でなにか思いつく、疑問を持つ、それを自力で解決するなどの応用力には乏しいように感じた。

 実際、委員会の仕事などにおいても先輩方から教えられたルーチンを繰り返すだけであり、智香子のように、

「どうやったらもっとうまく、効率的に仕事を消化できるのか?」

 と考えることはないようだった。


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