第169話 四人会議
「あああ」
委員会が管理する教室から出た後、途端に智香子は自分自身の発言を後悔した。
「あんなこと、いわなけりゃよかった」
「まあまあ」
佐治さんが、そういって智香子の背を軽く叩く。
「大胆だとは思ったけど、あそこまで啖呵を切っちゃったらもう後には引けないよね」
「冬馬さんって」
香椎さんは、そういう。
「前々から思っていたけど、普段は大人しいくせに突然やらかす時があるよね」
「チカちゃんは、さ」
黎が、弁護らしい言葉を吐いた。
「基本、考える人なんだよ。
それで、疑問に思ったことはその場で口にして、改善できるのなら改善する人。
少なくとも、そうしようと試す人。
この間の〈バッタの間〉でも、今日のメイスでも。
だからさっきのあれも、うん、別に、不自然だとは思わないなあ」
四人は今、迷宮が入っているビルにテナントと入っている、コーヒーショップに来ていた。
安売りを旨とするチェーン店で、中学生の小遣いでも長居をすることができるお店だった。
それに、智香子たちは以前に〈白金台迷宮〉にいった時の分け前を、まだほとんど手つかずのまま残してもいた。
このようなお店で時間を潰すことができるくらいの余裕は、今の智香子たちは持っているのだった。
「冬馬さんのことは、それでいいとして」
香椎さんがいった。
「それを除いても、委員会の仕事っておいしくない?
あそこで仕事ができれば、卒業してからもあまり苦労をしないで済むと思うけど」
「実務関係は、ね」
佐治さんが中学一年生らしからぬ意見を述べた。
「確かに慣れることはできるんだろうけど、でも、実際に就職してからはどうかなあ。
仕事以外に、人間関係とかその職場だけに存在する奇妙な風習とか、そんな問題で苦労するっていうから」
「うっ」
そういわれた香椎さんは、露骨にひるむ。
「なんでそういう微妙にリアルなこというかな」
「いや、その」
佐治さんは頭を掻きながら、そういった。
「周りの大人が、よくそんなはなしをしているもんで」
「周りの大人?」
智香子は首をひねった。
「それって、佐治さんのご両親とか?」
「ああ、まあ」
佐治さんは、露骨に視線を逸らす。
「両親、ではあるんだけ。
うちの親、他人からよくその手の相談をされる人たちだからさ」
弁護士さんとか、かな。
と、智香子は推測をした。
松濤女子に通う子というのは、智香子が入学前に予想したよりは遙かに家柄がいいらしく、両親が士業とかの社会的に高い地位に就いている生徒たちも多いようだった。
「それはともかく」
黎が、話題を戻した。
「四人全員で、委員会に入る。
それで異論はないね?」
「ええ」
「問題なし」
香椎さんと佐治さんとが、即答をする。
黎自身も、黙って頷いていた。
「ええっと」
智香子は、三人を見渡してから、そういった。
「本当に、いいの?
別に無理につき合ってくれなくても……」
「別に無理に、ってこともないなあ」
佐治さんはいった。
「さっきもいったように、こっちにもそれなりにメリットはあるわけでさ。
それに、考える時間はこれまで十分にあったわけだから」
いわれてみれば、千景先輩に声をかけられてから今日まで、中間や文化祭などの行事を挟んでいることもあって、かなり間を置いている。
その間、智香子以外の三人もそれぞれ、委員会について検討をしていたのだろう。
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