第17話 集合場所で

 構内に入った智香子はまず自分のホームルームへと直行し、そこで〈フクロ〉から着替えを出して着替えた。

 学校指定のジャージと智香子自身の身長とほ同じ長さのグラスファイバー製の細長い棒、フェイスガード付きのヘルメット、それに、まだここでは履き替えないが、昨日購買部で購入した初心者探索者用のブーツ。

 というのが、この時点の智香子の装備になる。

 これ以外に、迷宮活動管理委員会に申請してあにがしかの装備を調えようとも思ったが、昨日、傍らにいた三嗣黎に、

「そういうのは、もう少し待った方がいいんじゃない?」

 といわれて、思い直した。

 昨日、購買部で大量に装備を購入していたガチ勢が迷宮活動管理委員会にそのまま流れていたら、めぼしい初心者用の装備はあらかたなくなっているのではないか、というわけである。

「少なくとももうしばらくは、浅い階層で慣らしていくんだし」

 三嗣黎は、そう続けた。

「自分でなにかドロップした装備を手に入れるかも知れないし。

 それに、迷宮での戦い方がまだ固まっていない今の時点で、装備を調えても無駄になる可能性のが大きいよ」

 黎が心配するところは、おおむね納得がいく。

 それで、智香子は本格的に装備を調えることを先送りにすることにした。

 黎の説明通り、装備を揃えるよりも、まずは迷宮での自分なりのスタイルというものを確立することを優先した方が、遙かに効率がよさそうだったからだ。


 着替えた智香子は校舎の廊下を抜けてそのまま迷宮のゲートがあるホールへと向かう。

 そこは外来者にも開放されていて、明らかに松濤女子の関係者だけではない人たちも大勢集まっていた。

 昨日よりも賑やかなくらいで、智香子はホールの隅まで移動してから〈フクロ〉でブーツを出し、その場で履き替える。

 それから周囲を見渡すと、ぼちぼち松濤女子の一年と引率役との先輩が集まりはじめている様子だった。

 見覚えのある顔をあちこちで見かけたし、昨日ゲットしたばかりの高級な装備を身につけているガチ勢の子も、何人か見掛けた。

 とはいえ、そうした人々についても、智香子はほとんど、名前さえ知らない。

 昨日だって、クラブのSNSで「希望者は集合すること」的に集められ、その場で適当にパーティに組み入れられただけだった。

 そういえば、「みんなで集まって自己紹介」、みたいなことはしてないな。

 と、智香子は、はじめてそのことに思い当たった。

 これは、「学校の部活」としては、ちょっと変則的なのではないか。

「おはよ」

 そんなことを考えていると、そう声をかけられた。

 声がした方を向くと、三嗣黎が立っている。

 智香子はその黎に挨拶を返した。

「なに難しい顔しているの?」

「いや、このクラブ、クラブという割には全員で集まるようなことしないんだな、って思って」

 黎に問われた智香子は、思い当たった疑問を口にする。

「ああ。

 この時期は、まだね」

 黎は、即座に智香子の疑問を解消した。

「もう少しして、一学期の終わりまで残っていたらその時に改めて顔合わせするんだよ。

 新入生の脱落率が意外に高いし、それに、兼部でやっている人も大勢いるから、なかなか一堂に会する機会というのも作り難いってことで」

 なるほど、と、智香子は心中で深く頷いた。

 しかし、この黎は、智香子と同じ一年だというのに、どうしてクラブの内情を詳しく知っているのだろう?

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