第148話 移動中の会話

「冬馬、〈バッタの間〉で面白いことをやってたなあ」

 全員で校舎へと引き上げていく最中に、勝呂先生がそんなことをいい出した。

「あれなに、スキルかなにか?」

「いえ、ちょっと〈杖〉を」

 智香子はそう答える。

「こう、集中して連続使用していただけで」

「ああ、〈杖〉の方か」

 勝呂先生はそういって頷いた。

「やろうと思えば誰にでもできるんだろうけど、実際にやるやつはあまりいない。

 そんな使い方だな、あれは」

「でしょうねえ」

 智香子も、大きく頷く。

「あんな場所でなければ、そもそもあんな使い方をしてもあまり意味がありませんし」

 全周をエネミーに囲まれている〈バッタの間〉という特殊な空間さからこそ、体全体をすっぽうりと放電で覆う、という方法が生きていくる。

 迷宮の他の場所では、エネミーとはほとんど遭遇戦になるわけで。

 あんな形で体全体を放電で覆っても、なんのメリットもない。

「ま、そうだよなあ」

 勝呂先生はそう認めた後、

「で、なんであんな真似したの?」

 と、智香子の意図を訊ねてくる。

 あんな奇手に頼らなくても、今の智香子の実力ならば、あのバッタ型などは普通に駆逐できるはずなのである。

「それは、ですね」

 智香子はそもそもの動機、いろいろな方法を試して新しいスキルを生やしたい、という希望について説明をする。

「ふうん」

 しかし勝呂先生は、その内容にあまり興味を持てないようだった。

「自分で考えて行動するのは大切だと思うけど、ちょっと的外れかなあ」

「そうですか?」

 智香子は首を傾げた。

「そうだよ」

 勝呂先生は即答した。

「もっと確実に、使えるスキルを生やせる方法が伝わっているんだからさ。

 偶然新しい方法を発見するよりは、まずはそっちの方を試してみるのが確実だろ?」

「はぁ」

 智香子は、はっきりとしない返答をする。

「でも、今使っている〈杖〉だけだと、あまり威力があるスキルは生えないみたいで」

「ちゃんと成長すれば、電撃系でもそれなりの殺傷能力が出てくるんだけどな」

 勝呂先生はそういって頭を掻いた。

「ああ、委員長。

 雷属性以外のアイテム、今在庫ある?」

「もう少し待てば、どっと増えるはずなんですけどね、在庫」

 千景先輩は即答をした。

「ぼちぼち、最上級生が部活を引退していく時期ですから」

「ああ、もうそんな時期なのな」

 勝呂先生は気の抜けた口調でそういった。

「そうだな。

 そしたらなんかよさそうなアイテム、この冬馬に優先的に回してやってくれ。

 こいつら、扶桑さんとの提携のきっかけを作った功労者なわけだし」

「それは別に構いませんが」

 千景先輩はそういった。

「でも、〈雷撃〉以上の〈杖〉系のアイテムとなると、初心者には扱いが難しい物ばかりになるんですが」

「なに、その辺はこいつがしっかりやるだろう」

 勝呂先生は気軽な口調で断言した。

「放っておいてもあんな工夫を考えて実行するやつだ。

 考えなしになにかするとも思えない」

「それもそうですね」

 千景先輩も、あっさりと勝呂先生の言葉に同意をする。

「それとは別に、冬馬さん。

 あなた、確かオフィスアプリが扱えるとかいってたよね。

 よかったらうちの委員会も手伝って貰えない?」


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