第147話 扶桑さんの仕事

 その日はそれで終了となった。

 後半、新人さんたちは智香子がやっていることを見ているだけだったが、ただそれだけでも同じパーティに所属していさえすれば累積効果は分配される。

 結果としてレベリングはできているわけで、新人さんたちにとっては無駄ということはなかった。

 扶桑さんによると、この新人さんたちはこの後、武器を振るう時のフォームなどについても個別に指導され、時間をかけて探索者として仕上げていくそうだ。

 その扶桑さんの側から見れば今回限りではなく、同じような新人育成を何回も繰り返しているはずだった。

 それが、扶桑さんの仕事なのである。

 その意義は認めるにしても、精神的に大変だろうなあ、と、智香子は思う。

 今回、智香子たちの同行していることを扶桑さんは最大限に利用したわけであるが、おそらくは延々と続くであろうその仕事の性質を考えると、利用されたことに対して安易に怒るのもなんか違うような気がした。

 おそらく扶桑さんは扶桑さんの立場で、その場その場の状況も積極的に利用して自分の仕事をまっとうしようとしているだけであり、むしろ客観的に見れば唐突に連絡を取って扶桑さんの会社に押しかけた智香子たち側の方が図々しい闖入者、なのだろう。

 扶桑さんはそんな智香子たちの存在を最大限に利用し、自分の仕事に生かそうとしているだけなのだ。

 おそらくは、だが。

 智香子はすばやくそこまで想像を巡らせ、

「仕事として迷宮に入るということは、どういう感じなのだろうか」

 と考える。

 仕事として探索者をやるとなると、採算度外視、あくまで部活として迷宮に入っている智香子たちとは違い、エネミーを倒すこと以外にも様々なことを考えなければならないはずで、さらに扶桑さんの場合は人材育成という行為自体からも相応の利益を得られるようにしなければならない。

 普通に探索者をやるりよりはずっと大変で、考えるべきことが多いはずだった。

 基本的にハイリスクハイリターンであり、「探索者を仕事にする」のはただでさえ難しい、とされている。

 その上、自分自身ではなく他人の面倒まで、それも一人前になるまで面倒を見ようというのだから、フォローするべき事項もかなり多面的になるはずで。

 そんな複雑なことを、よく仕事にできているなあ、と、智香子は本心から感心をする。

 相手が人間であり、つまりは受け持つ人個々の個性のことまで勘定に入れると、かなり複雑できめ細かい対応が必要になる仕事で、つまりは、智香子にはそんな苦労が多く面倒な仕事を、どうやって採算が合うところにまで持って行っているのか、まるで見当がつかなかった。



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