第146話 先行者として
十分少々でバッタ型の殲滅が完了した。
短いように思えるが、智香子たち松濤女子組は一年生であってもこの〈バッタの間〉を単独で全滅した経験がある。
さらに上級生である千早先輩まで加わっているとなれば、この程度の時間で完了してもおかしくはないのであた。
扶桑さんのところの新人さんたちは、智香子たちの戦い方をみてひたすら驚いているようだった。
年端もいかない自分たちがここまでやるとは思わなかったのかな、と、智香子は想像する。
いや、理屈ではわかっていたのだろうが、その実力差を実際に目の当たりにすると智香子たちの外見から受けていた印象とその働きぶりとが乖離していて、認識の方が追いつかない状態なのかも知れない。
彼女たちにしてみれば智香子たちは年の離れた妹とか子ども、下手をすると孫くらいの年頃になるわけであり、そんな子どもたちがこうして手際よくバッタ型を始末していく様子をさまざまと見せつけられると、うん、やはりすぐに納得はできないんだろうな。
と、智香子は思った。
迷宮の内部で、特に迷宮が人間に及ぼす影響について、この人たちくらいの初心者だと、まだうまく実感できていないのだった。
智香子自身も、はじめのうちはそうだった。
ただ、身近に先輩たちの様子を見ていたので、自分自身のスキルなどを含めた成長ぶりもそんなに不思議には思えなかったわけだが、探索者としての経験が浅い人たちにしてみれば、今の自分たちの様子は完全に異常に見えるはずなのだ。
その証拠に新人さんたちは智香子たちのことをなんだか人間以外の、それこそ怪物かなにかを見るような目で見ていた。
「はい、見ての通り」
智香子がそんなことを考えているのとは関係なく、扶桑さんがそんな新人さんたちに向かって説明をし始めた。
「ほんの少し経験を積めば、すぐに皆さんにもこの程度のことはできるようになります。
松濤女子一年生の皆さんも、この春からはじめてまだ半年程度、それも毎日長時間迷宮に潜っているわけではありません。
それでも、この程度には育つわけです」
ここの来ている新人さんたちは、扶桑さんの口ぶりだとどうもかなり逼迫した事情があって探索者になる選択をしたようだった。
だったら。
と、智香子は考える。
おそらくは毎日、熱心に迷宮内を探索する人が多いはずで、自分たちなどすぐに追い越されてしまうんだろうなあ。
いや、あくまで部活として限定された時間内で探索者として活動をする自分たちと、それなりに差し迫った動機を持って迷宮に入る専業者とを比較することに、あまり意味があるとも思わないわけだが。
なにしろ真剣さも使える時間も、まるで違うのだ。
ただ、この時点では智香子たちの方がほんの少し探索者として先輩になり、実力でいえば優位にある。
その事実を、この人たちはどう受け止めるんだろうな、と、智香子はそう考える。
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