第145話 作業効率

 バッタ型はその区画にほぼまんべんなく存在している。

 特に狙う必要もなく、現在の智香子の状態を保ったまま移動するだけでも、勝手に放電に当たって焦げて落ちていく。

 エネミーの例に漏れずバッタ型も人間と見れば見境なく襲ってくる性質があり、しかも知能が引くい無知恵あることもあって、単純な体当たりがほとんど唯一の攻撃方法であったりする。

 ひょっとしたら智香子が移動していなくても、誘蛾灯に誘われる虫のように、バッタ型の方から勝手に放電に体当たりをして自滅していったかも知れない。

 とはいえ、智香子にも新しいスキルを習得する、という目的があるので、この状態のまま様々なことを試したいところだったが。

 智香子は〈察知〉のスキルを使用して、他の仲間たちの現在地を確認する。

 放電に包まれているため視界は悪かったが、〈察知〉のスキルを併用すれば特に困ることもなかった。

 幸いにして他の仲間たちは智香子から距離を取った場所でおのおのにバッタ退治を頑張っていたので、智香子としては好きに動くことができた。

 今、智香子が出している程度の放電に巻き込まれたとしても、保護服に身を包んだ探索者が深刻なダメージを負うとも思えなかったが、まともに感電をすれば数秒から数十秒動けなくなる、はずである。

 実際に試したことはなかったので、あくまで智香子の推測になるのだが、それでも同士討ちになることはできるだけ避けるべきだと思った。

 思ったよりも、負担はないな。

 しばらく歩いてみた結果、智香子はそう感じる。

 実際にやっているのは「〈杖〉の機能を連続して使用する」ということになるわけだが、ショット系などの遠距離攻撃スキルとは違って、一回一回慎重に狙いをつける必要もない。

 つまり、一度コツを掴めばほぼ自動的にこの状態を保持することも、あまり苦労せずにできるようだった。

 これまで、この〈杖〉をこんな使い方をしてこなかったので、一度慣れてしまえばほとんど負担に感じない、という事実は智香子の発見ということになる。

 などということを考えている間にも、バッタ型は次々と放電に当たって落ちている。

 バッタ型が焦げる音が絶え間なく聞こえてくるので、そのことを実感できた。

 密集しているのも、よしあしだよな。

 と、智香子は思う。

 このバッタ型は、単体ではかなり弱く、集団に襲われてはじめて脅威となるような種類のエネミーである。

 しかし、いくら集団であったとしても、襲われる側が相応の対象法を持っていると、今の智香子のように完全に空気と化す。

 体を動かして一体、また一体といった具合に個別に落としていくよりは、今の状態の方が智香子としてはずっと楽ができた。

 もっとも、智香子が知る限り、この程度の放電でどうにかなるようなエネミーはどちらかというと少数派であり、ここ以外の場所で、どこででも汎用的に使える手ではないわけだが。

 とりあえず。

 と、思いつつ、智香子は歩き続ける。

 今のお仕事に、専念しますかね。

 つまりは、ここのバッタ型の殲滅、ということになるわけだが。

〈察知〉で確認したところ、他の四人もそれぞれの方法でバッタ型を倒し続けていた。

 スコアとしては、千景先輩が一番効率よくバッタ型を倒している。

 これは別に驚くべき結果でもなかったが、次に多くのバッタ型を倒しているのは、どうやら智香子自身らしかった。

 一度に多くのバッタ型を落としているからかな、と、智香子は思う。

 後の三人は、追撃数的に見ると、あまり変わらない成績に見えた。

 智香子にとっては楽な仕事になったが、効率よくエネミーを片付けて怒られるということもないだろう。


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