第11話 松濤女子のルール

「ちょっといい?」

 だべっていた冬馬智香子と三嗣黎に、声をかけて来た人がいた。

 見上げると、眼鏡をかけた、智香子たちよりも三歳か年上に見える、松濤女子の制服を着た女性が立っている。

「ドロップ・アイテム持っていたら、回収したいんだけど」

「ああ、はい」

 智香子は慌てて立ち上がった。

「えっと、ここで出しちゃっていいんですか?」

「ええ」

 眼鏡の上級生は、頷く。

「床の上でもどこでも、好きなところに出しちゃって」

「では」

 智香子はそういって頷き、そして次の瞬間、智香子の前の床にいきなり山が出現した、ように見えた。

「わ」

 その唐突さに驚いた三嗣黎が、小さな声をあげる。

「〈フクロ〉のスキルよ」

 上級生が、そんな黎に向かって説明をした。

「しかし、初日で〈フクロ〉と〈鑑定〉生やしたか。

 どちらもレアではない、比較的ポピュラーなスキルだとはいえ、初日に両方一遍に、ってうのは珍しいわね」

 そういいながらその眼鏡の上級生は、コインだの短剣だの、智香子が出したドロップ・アイテムの山を瞬時に自分の〈フクロ〉に収納した。

「わ」

〈フクロ〉のスキルを持たず、その唐突さに慣れていない黎が、また驚きの声をあげる。

「こんな山でも、成分的にはほとんど鉄だから」

 眼鏡の上級生は、説明をし出した。

「あんな浅い層では、そんな上等なアイテムはほとんどドロップしないし。

 地金というか、スクラップ同然の価値しかないから」

「そうなんですか」

 智香子は、上級生の言葉に素直に頷いている。

「たまーに、金貨とか銀貨が混ざっている場合もあるけどね」

 眼鏡の上級生はそういって大きく頷いた。

「そういう場合でも、課外活動時の収益はすべて一括して、学校側が管理する決まりになっているから。

 自分の稼ぎが欲しい場合は、学校とは別の場所で引率してくれる人を見つけて、迷宮に入るように」

 いろいろと煩雑な規則がある、ということは、智香子も黎も漠然と知ってはいた。

 危険と引き換えに一攫千金を目指す探索者としての活動と、中高校生女子の部活動とでは、どうしても本質的な部分で齟齬が、かみ合わない部分が存在してしまう。

 その齟齬を幾分なりとも少なくするために、松濤女子側も詳細なルールを作って、対処をしているわけだった。

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