第12話 迷宮活動管理委員会

 迷宮が発見された頃、周辺は焼け野原だった、という。

 松濤女子学園の周囲だけではなく、東京のほとんどが、いや、日本中の主要な都市が、空襲を受けて灰燼と化していた。

 当時の松濤女子の関係者は、そんな時代であるからこそ、この〈松濤迷宮〉を有効に活用し、中から採取した物資を使うなり売るなりして、学園の再興を助けた、という。

 智香子や黎が生まれる、何十年も前のことだ。


「そういうのがうちの伝統だから」

 眼鏡の上級生はいった。

「流石に今では、迷宮からのあがりをそのまま学校の運営費に充てるようなことはしていないけど、でも、課外活動で得た収益は一度学校側が管理をする決まりになっている。

 こうして集めて、まとめて売りに出して、その収益は校内の部活動費用などに使っています」

 そういってその眼鏡の上級生は、制服の袖につけた腕章を智香子たち二人に示して見せた。

 そこには太くくっきりとした字体で、

「迷宮活動管理委員会」

 と印字されている。

 ドロップ・アイテムを管理する役割も、この松濤女子では生徒たちの自主性に委ねられているわけだった。

「もっとも、わたしたちもドロップ・アイテムを回収する一方ではないので、そこは安心をして」

 そういって眼鏡の上級生は智香子と黎にパンフレットを渡した。

「詳しいことはそこに書いているけど、これから先迷宮探索用の装備とか必要になったら、まずわたしたちの委員会に相談して。

 大抵の装備は先輩方が残してきた備品を流要すれば間に合いはずだし、もしもなかったら新しく発注するから」

 どうやらこの「迷宮管理委員会」という組織は、松濤女子の中でドロップ・アイテムの回収や売買を管理するだけではなく、探索者用の装備までも保管し、管理しているらしい。

「先輩」

 黎が、片手を揚げて質問をした。

「それ全部、生徒だけでやっているんですか?」

「基本的には、そうです」

 眼鏡の上級生は、そういって頷く。

「代々継承してきた伝手とかもあるので、今のところは生徒だけで管理できています」


 この「迷宮活動管理委員会」というのは、かなり大きな権力を持っているのではないか。

 智香子は漠然と、そんなことを思った。

 松濤女子の上級生ともなれば、かなり深い階層まで潜ると、そう聞いている。

 つまりそれだけ、高額なドロップ・アイテムを扱う機会も、多くなるはずであり。


 よくマンガなんかで「非常識に絶大な権限を持っている生徒会」とかが登場するけど、あれのリアル版みたいだな、と、智香子はそんな連想をした。

 

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