第10話 最初の〈スキル〉
一方、バッタの間で奮戦していた新入生たちは。
「うへぇ」
ゲートにほど近いロビーの中で、そんなことをいい合いながら床にへたり込んでいた。
そのゲート周辺のロビーには、松濤女子の関係者だけではなく、大勢の探索者たちが利用する公共の空間であったが、彼らはそこここに座り込んだ新入生たちをスルーし、避けて通行していく。
数十名の新入生たちがそんな風にゲート周辺のロビーにたむろしているのは、この〈松濤迷宮〉では毎年恒例の風物詩となっているのだ。
迷宮と呼ばれる異空間は、公社が管理するゲートによって厳重に出入りが管理されていた。
具体的にいうと、駅の改札にあるようなリーダーが八つ、輪状に配置され、探索者用のIDカードがないとそのゲートを潜ることができない仕組みになっている。
彼女たち新入生は、全員が探索者資格を取ったばかりの素人だった。
研修の時を除けば、本格的に迷宮の中に足を踏み入れたのは、つまり実質的には、これが初めてであったといってもいい。
それでいきなりあれだけ激しい戦闘を行ってきたのだから、いやバッタ相手の奮闘だけではなく、その後のドロップ・アイテム拾いまでやり終えたばかりだったから、肉体的な疲労についてはいうまでもなく、精神的な疲労も激しかった。
「今まで、こんなに疲れたことないよ」
冬馬智香子は、そうこぼした。
「そうなん?」
近くにいた三嗣黎が、その冬馬智香子に声をかける。
「そもそも、体育の授業以外に体を動かすこと、なかったし」
「あー」
三嗣黎は、曖昧な声を出した。
「普通の子は、そんな感じかもねー」
「ってことは、ミツグちゃんは違うんだ?」
「運動いうか、ブラバンやってたから」
三嗣黎は、反射的に答えていた。
「ブラバンとか吹奏楽って、ほとんど体育会系だから。
って、あれ?
わたし、名乗ったっけ?」
「いや、初対面だし、名乗っていない」
冬馬智香子は、首を振ってそう答える。
「ただ、そこに浮かんでいる。
その、名前と、それに〈蛮勇〉とか〈強打〉とか」
「あー」
三嗣黎は、またうめき声をあげた。
「噂の、〈スキル〉ってやつかあ」
「うん」
冬馬智香子は、そういって頷く。
「たぶん、〈鑑定〉って〈スキル〉だと思う。
バッタの間で、こういうのが見えるようになった」
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