第9話 引率者たち

「わたしらも、もう三年かあ」

「早いよねえ、うん」

 そんなことを言い合いながら、青島凪と松風薫は校舎の方に歩いて行く。


 公社が管理するゲート周辺は、学校法人松濤女子学園が所有するビル内に存在する。

 そのゲートから松濤女子学園の校舎まではそのまま繋がっていて、松濤女子の関係者ならば外に出ることなく移動が可能だった。

 もちろん、公社とゲートがある建物と境には、廊下に松濤女子が雇った警備員が常駐していて、出入りする人間を選別している。

 二人はその警備員に顔写真付きの生徒手帳を提示して、その検問をまま通過した。

 ここを、こうして通るのもあと何回、あるのだろうか。

 ふと、青島凪はそんな風に思う。

 青島凪と松風薫は、あと一年で松濤女子を卒業する。

 留年などせず、順調にいけば、だが。

 卒業をして以降も探索者を続けることは可能だったが、こうしてゲートから校舎に直接入る機会は、基本的になくなるはずだった。


「いや、その前に」

 口に出して、青島凪はそう呟く。

「受験が、なあ」

 かなり、物憂げな表情だった。

「OA狙いで、適当なところに潜り込めば」

「進学はよくても、その後の就職で苦労するよ」

「いっそのこと、専業の探索者になるとか?」

「不安定で危険で、なによりモテないんだよなあ。

 女性の探索者って」

 そんなことをいい合いながら、二人は最寄りの教室に入り、そこで〈フクロ〉からそれぞれの荷物を出して、着替えはじめた。

〈フクロ〉とは、探索者が習得できるスキルの一種で、なにもない空間に物品を収納できる能力の呼び名であった。

 便利かつ比較的習得がしやすいスキルであるため、多くの探索者がこのスキルを使いこなしている。

 この二人も、その例に漏れなかった。

 また、松濤女子学園はその名の通り女子校であったので、生徒用の更衣室というものは存在しない。

 着替えをしたい時は、どこか適当な空いている教室に入って行う。

 この、ゲートから校舎に入ってすぐの教室は、位置的に手頃であったため探索者をしている生徒たちによく利用されていた。

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