第49話 狩りの実際
「あっちにいるね。
例によって、群れで」
宇佐美先輩がネコ耳をひくつかせながらあらぬ方向を指さすと、他のパーティーメンバーは弾かれたように駆けだした。
智香子も、遅れまいと駆け出す。
迷宮内で迷子になったら、まだ〈フラグ〉のスキルを習得していない智香子に取っては、比喩ではなく文字通りに「命取り」になりかねないのだ。
「おっ先にー!」
そういい残して、他のメンバーを引き離して先行したのは、陸上部と兼部している四条先輩だった。
探索者としてはかなりの軽装、というか、セパレートタイプの陸上用トレーニングウェアを身につけた四条先輩は、贅肉のまるでない、スレンダーな体躯を踊らせてあっという間に見えなくなる。
その後を、他のメンバーがどどどどと足音を響かせて追いかけていく。
もしもこの場に第三者が居合わせたら、鬼気迫る様子にドン引きしたはずだ。
探索者として強化された身体能力に物をいわせて全力疾走する女子たちの様子は、それくらい迫力があった。
なんだかなあ。
と、走りながら、智香子は思う。
漠然とイメージしていた探索の様子と、だいぶ趣が違う気がする。
先行した四条先輩は細長い槍型のドロップ・アイテムを両手でしっかりとホールドしていた。
〈疾駆のランス〉という、走力プラス補正効果があるアイテムで、長距離走選手である四条先輩自身の個性と相性がよかった。
その〈疾駆のランス〉は、走力だけではなく攻撃力にもかなりプラス補正を持っている。
「一番槍もーらいー!」
そのおかげで、四条先輩は自分の体よりもずっと大きい、スイギュウ型のエネミーの体をそのまま突き抜け、かけ続ける。
そこにいたスイギュウ型のエネミーはといえば、四条先輩が衝突した瞬間の衝撃で残った体の部位を周囲にまき散らしながら絶命した。
おそらくは最後まで、自分が死んだことにさえ、気づかないままだったろう。
相応の累積効果を得た探索者と強力なドロップ・アイテムとの組み合わせは、ここまで凶悪な攻撃力を得ることができるのだった。
少し遅れて、他のメンバーもおのおの特異とするやり方でスイギュウ型エネミーを攻撃しはじめた。
足を止めることなく、走り回りながら〈疾駆のランス〉でエネミーを蹴散らし続ける四条先輩の次に攻撃がヒットしたのは、エネミーの群れから少し離れたところで足を止め、和弓を構えた宇佐美先輩だった。
ウサ耳型のドロップ・アイテムを頭につけた宇佐美先輩は、四条先輩が陸上部との兼部であるように、弓道部との兼部組だった。
なにもつがえていない弓を構えた姿も、堂に入っている。
「合いました」
大きな弓を引いた宇佐美先輩は、ふと軽く息を吐くのと同時に、弦を持っていた手を離す。
びん、と、弓の弦が意外に大きな音を発し、そして、遠くにいたスイギュウ型が、どうっと倒れた。
スキル〈梓弓〉。
なにもつがえていない弓で、存在はしない矢を放つ。
そんな、遠距離攻撃型のスキルだった。
弓道部との兼部組は、ほぼ全員が伝統的にこのスキルを使いこなしているという。
その他のメンバーたちも、四条先輩や宇佐美先輩に負けじと、スイギュウ型を狩りはじめた。
五十体以上はいたスイギュウ型は、あっという間に数を減らしていく。
あんなに大きな体をしているのに。
その様子を見守りながら、智香子は半ば呆れていた。
そのスイギュウ型エネミーの体は、かなり大きい。
体重も、おそらくは一トン前後はあるのではないか。
智香子ら、中高校生女子の体格と比較するのが馬鹿馬鹿しいくらい、大きな動物なのだ。
その大きなスイギュウ型エネミーが、自分たちよりも遙かに小さい探索部のメンバーにいいように翻弄され、あっという間に狩られていく。
彼ら、スイギュウ型エネミーにしてみれば、それこそ悪夢のような光景であるのに違いない。
黎が指摘をした問題、
「松濤女子の方法は、攻撃に偏り過ぎているのではないか?」
という点については、智香子も自分で先輩方とパーティを組みようになってから、実感できるようになった。
なんというか、うん。
「凶悪すぎるでしょう、うちの先輩たち」
というのが、先輩方のパーティに同行するようになった智香子の、率直な感想であった。
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